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終わらない夜
「ふぅーっ終わった終わった!!」
「想像してたより楽しかったな!」
「この堅苦しい服もう脱いでいいか〜?」
舞踏会が終わり着替えをした控え室に戻った。今夜はナラマが城の客室を用意してくれたため里へは戻らず城に泊まる予定である。
「風呂入って飲み直さないか?」
「お!いいな!」
「俺も参加しよう」
ダグの提案にイルダやカナタ、ノエルが賛同する。別室で着替えていたファーネスもその話を聞いて参加の意思を示した。舞踏会の最中もかなりの量の酒を飲んでいたはずだが、まだまだ足りなかったようだ。
「ルゥとレジも飲むだろう?」
勿論参加するだろうと思い確認の意味でダグが二人に声をかける。
「ああ、そうだな・・・ん?どうしたルゥ」
「・・・」
まだ夜もそこまで遅くないことからルゥも参加するだろうと思い答えたレジの顔を、ルゥがじっと見つめる。
まだルゥが普段寝る時間まで二時間程あるが、眠いのだろうかとその顔を覗き込むが眠そうな様子はない。眠そうどころか、むしろ普段よりも目がギラついているように見えた。
無言だったルゥは甘える時のようにレジの腕に尻尾を絡め、レジの首元に頭を寄せるとゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「お!なんだルゥは酒よりもレジがいいのか!」
「そうらしい」
ルゥの行動にダグがニヤニヤとすればレジが若干頬を赤くしながらも満更でもない様子で頷く。むしろルゥから求められて内心は舞い上がっていた。
「じゃ、今夜は俺達だけで飲み直すか!」
そう言ってダグ達はルゥとレジを残して部屋を出ていった。きっとこれから厨房に顔を出して酒とつまみを調達しに行くのだろう。ノエルを先頭に我がもの顔で王宮を歩くその自由さにレジは苦笑する。
部屋に残されたレジは変わらず首元に擦り寄るルゥのふわふわの、しかし今日はしっかりとセットされた髪の毛を撫でながらその顔を覗き込んだ。
「何だか久々じゃないか?」
「最近忙しかったから」
この一ヶ月程はダンスの練習や舞踏会の為の準備と打ち合わせなどが続いていた。普段のんびりとした生活を好むルゥとしてはかなり忙しい日々に思えた。それこそ昼寝に回せなかった時間を取り戻すかのように、夜はぐっすりと深い眠りに落ちていた。
「でも今日は気分がいい。だからレジと少しだけ夜更かししようと思う」
そう言うとルゥはレジの首に腕を回し、その首筋をべろりと舐めた。いきなりの行動にレジはブルりと身震いし、しかしすぐに目の前にある白いふわふわとした耳に仕返しとばかりに軽く噛み付いた。
「んっ」
「風呂に入ってからにするか?」
「んー・・・この髪のベトベトを流したい」
舞踏会の服装に合わせて綺麗にセットされたそれも、普段何も付けないルゥからすると気になって仕方なかった。控えめではあるが匂いのついたオイルが使われており、鼻のいいルゥには慣れないその匂いが自分からしているのも落ち着かない。
レジからすると普段と違うルゥのその姿も新鮮で良かったが、自身の髪を摘んで匂っては顔を顰めるルゥの姿に笑いながら大浴場へ向かうことにした。
「ナラマの所に行こう。今なら誰も近づかない」
「確かに殿下は当分来ないだろうが・・・」
ナラマの所とはつまり王様専用の浴場なのだが、ルゥはそこを自由に使っていいと許可を貰っていた。他の大浴場と比べ一人の為としては広すぎるそこは、他の者が来ない分落ち着いて過ごせるのでルゥは気に入っていた。そして来賓達とまだ話し込んでいたナラマは確かに当分浴場に足を運ぶことはないだろう。
予想通り誰もいない浴場に着いた二人はすぐさま着ていた服を脱ぎ捨て浴場に入っていく。
「お湯をかけるぞ」
「ん」
レジはしっかりと泡立てた石鹸でルゥの白い髪を丁寧に洗い、桶に汲んだお湯をかけ洗い流す。世話焼きな性格からか尽くしたい気持ちからか、いつしか一緒に風呂に入る際はルゥの髪や体を洗ってやるのが習慣となっていた。元よりダグに甘やかされて育っていたルゥは世話を焼かれることに慣れており、されるがままに身を任す。
勢いよくかけられたお湯と共に泡が流され、ルゥはブルブルと頭を振り余分な水を払う。
そんなルゥの姿を笑いながら眺めていたレジは、ふとある事を思い出した。
「そういえば、もしかして俺はいつもルゥに失礼なことをしてたのか?」
「?」
「ほら、舞踏会の最中にダグが言っていただろう・・・」
エリックがルゥの耳に触れようとした時、それを止めたダグは言っていた。獣人の耳や尻尾に許可なく触れることは無礼に当たると。それを聞いた時に、実はレジは内心ドキリとしていた。というのも、今までに何度となくルゥの耳や尻尾を触ってきたが、その行為に許可など取っていた記憶がない。 頭を撫でたついでのようにそのふわふわと触り心地の良い耳も一緒に撫でていた。
それをもしルゥが不快に思っていたとしたら・・・と心配になったのだ。
そんなレジの心配を他所にルゥがおもむろに手を伸ばし、レジの頭に生えた大きめのピンと上に伸びた耳に触れた。そしてさわさわとその感触を確かめるように手を動かす。
「んっ、ちょ、ルゥ、擽ったいっ」
「ふははっ」
その触り方がどうにも擽ったく、逃げるレジの姿に楽しそうにルゥが笑う。獣人の耳や尻尾は神経が集まっており、また性感帯の一つでもあるそこは触られるとゾワゾワとした感覚が体を駆け巡る。
「レジは俺に触られるのが嫌か?」
「え?いや、擽ったいが、別に嫌ではないな」
擽ったさは確かにあるが、触られたことが嫌だとは感じない。むしろルゥが触れるなら何処だろうと嬉しい。その答えにルゥは満足そうに頷く。つまりは、ルゥもレジに触れられるのは嫌ではないらしい。
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