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会食

若干予定していた時刻よりも遅れはしたが無事に食事会は始まった。朝ということもありパンや卵、ハムやソーセージと果物がメインの軽めのメニューが並べられるなか、ルゥの目の前にはそれらと別に大皿に乗ったステーキや鳥の丸焼きなどが並べられる。 「・・・見てるだけで胸焼けがするな」 「朝からというか、夜でもあの量は食えんぞ」 初めてみるルゥの食べっぷりに周囲の王達は唖然とし手が止まってしまう。そんな中で普段からよくルゥや獣人達と食事をしているナラマが、足りなかったら遠慮せず言うんだよなどと声を掛けるものだから更に周囲のもの達は驚いた。 食事が終わるまでの間は他愛もない会話で終始和やかな雰囲気が続いていた。会話は新参者であり皆の興味の中心でもあるルゥや獣人について触れるものが自然と多くなり、ルゥは食事に会話にと口が大忙しであった。 「では、そろそろちょっと込み入った話もしていこうか」 食事が終わり空いた食器の代わりにケーキや焼き菓子、果物などが並べられた頃合をみてナラマがそう切り出した。この食事会はただの王様が集ったお喋りの場というわけではない。気持ちが解れたタイミングでの国同士の情報交換、そして交渉の場でもあるのだ。 「コーライアとタナントの国境付近がこの間の大雨で土砂崩れが起きている。整備の人員を互いの国から早急に集めたい」 「コアからの海産物の輸出量を増やす為に新たな運搬路を増やしたい」 「我が国の学者を知見を広げるために留学させて欲しい」 内容は様々でそれぞれの国から多種多様な意見や要請が飛び交う。そしてその中にルゥ達に大きく関わる内容として上がったものが、 「やはりランドールの国土の中に獣人が住んでることに、国力への均衡が崩れる不安を感じる国民はどの国にも多いだろう。まず、我々には獣人に対する知識が圧倒的に少ない」 少ない所か無に等しい。これまで獣人達が人と距離を置いていたこともあり、獣人に対する話は全て御伽噺かのような空想に近い認識でさえあった。70年前の大戦に獣人が参加しなければ本当に空想上の種族として扱われていたかもしれない。 知らないということはそれだけで恐れる対象ともなる。それが自分とは違う種族、見た目となれば人は容易にそれを拒否し、否定し、排除しようとする。獣人を受け入れる為には獣人というものについて知らなくてはならない。 その方法について王達が難しい顔をして考え出したのを見たルゥは、目の前の焼き菓子に手を伸ばしながら口を開いた。 「うちの里に来てみるか?」 「「「「「「「「「・・・は???」」」」」」」」」 急な提案に、綺麗にナラマ以外の王達の声が揃った。王だけでなく周りにいるもの達も一同に口をあんぐりと開けてルゥの言った言葉の意味を頭の中で繰り返しているようだ。 「獣人を知るってなっても、俺達がランドール以外の国に急に姿を現せたら、パニックになるだろ?」 「・・・確かに獣人が急に現れるよりは我々が獣人の元に行く方が国民の混乱は少ないだろうな」 だからそっちが里に来ればいい。そうすれば獣人について手っ取り早く知ることが出来るだろう。そう思ってのルゥの提案に、一番に頷いたのはエリックだった。 「・・・そうだな。昨日も言ったが俺は自分で見聞きしたものしか信じない。なら獣人の里に行くのが一番だな」 「!?王自らが行くと言うのか!」 そのエリックの発言に食ってかかったのはコアの王モーゼスだ。モーゼスの他にも大半の王が同意見のようで、一斉に視線がエリックに集まった。 各国の王が他の国へ訪れることは決して多くはないが珍しくもない。今現在も舞踏会と同盟国の協議の場としてランドールに全国王が集まっている。 が、同盟国に加わったとはいえまだ正体を掴みきれていない獣人の里に足を踏み入れることに躊躇いがある者は多く、里への訪問も使者を送るつもりで検討していた王がほとんどであったようだ。 「コア殿下、先程言ったように私は自分の目で見て知りたいのですよ。ああ、もし舞踏会に続き国を空けることを危惧して下さっているのなら心配ご無用。私の家臣達は皆優秀、私が多少留守にしてもどうにかしてくれる者達ばかりなので。なぁ?」 「はい、殿下は度々外交と称して城を留守にされるので」 そういう意味で言ったわけでは無かったが普段から奔放さの目立つエリックに対しモーゼスは反論は諦め口を詰むんだ。 「なら、私も里へお邪魔させて頂こうか」 「私もあまり長く滞在は出来ないが、是非獣人の里を見てみたい」 そう名乗り出たのはクレバトスとカルディアの王、レナードとテオドールであった。他にも数名名乗り出た者がいたが、ほとんどの国は使者を送るということで話はまとまった。移動を含め王が何週間も国を空けるというのは簡単なことではないのだ。 「言っとくけど、里じゃここみたいな豪華なもてなしは出来ないからな」 里には王宮やそこに仕える使用人がいるわけでもない。自給自足が生活の基盤になっている。王であるルゥも今も変わらず狩りにも行くし畑の手伝いだってするのだ。 だからと言って他国の王や使者達を全くもてなさないということは出来ない。寝泊まりする場所や料理、酒もいつもより多く仕入れるべきだろう。護衛はそれぞれの国に任せるとして・・・などと、獣人達の中で唯一王宮事情を知っているレジがやるべきことの多さに頭を抱えていることにルゥは気付いていない。 「レジ、」 「どうした」 後ろに控えているレジを小声で呼ぶルゥ。座っているルゥが必然的に上目遣いになり、ちょいちょいっと手招きする姿も相まって大変可愛い、とレジは心中で思いつつも顔には出さずルゥの元に行く。 「このタルト美味い」 「・・・まだ沢山あったから後で部屋に戻ったら持ってきてもらおう」 「今」 「・・・一切れだぞ」 「二切れ」 どこまでもマイペースを崩さないルゥにレジは苦笑いしつつも従ってしまう。

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