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ランドニア探索

「⋯てなわけで、ルゥが王様達を誘ったから、しばらく里には色んな国のお偉いさん方が出入りすることになった」 朝の会談が終わりルゥが宛てがわれている部屋に戻るとダグ達が部屋に集まっていた。部屋の主が留守の状態を気にした様子もなく寛いでいる。 「ま、改めて獣人について教えろとか言われても自分達のことじゃ何を教えればいいのかも、いまいちわからねぇからな」 「うんうん、見て貰った方が早いよな!」 「人間と違うところなんてそれ程ないのにね」 「ちーっと寿命が長くて力が強いってことしか思いつかんな」 ダグ達が言うようにルゥ達からすると人と獣人の違いなどそれ程無い。確かに寿命と力の面では人間と比較すると飛び抜けたものがあるが、いつかは同じく死が訪れるし、力も普段は抑えて暮らしている。今は耳と尻尾を出した半獣化した姿をしているが、それは獣人側からしても異例な事といえる。決定的に違うといえば獣人の王への想いの強さと絆くらいだろう。 「別に無理して違いを見せつける必要は無い。同じなら同じ、それでいい」 ルゥの言う通り、獣人の生活を見て違いがあればそれを知ってもらい、人と変わらないと感じればそれでいいのだ。 この70年、正体を隠してとはいえ人々の暮らしにそって生きてきた獣人達は、昔よりも人間を身近に感じている。これからどれくらいの時間が必要かはわからないが、人間側からもそう思われる日がいつかは来るだろう。 「ま、俺達は寿命が長い分、気も長いからな。今回も気楽に相手さん方の出方に任せてみようじゃねぇか!」 なるようになるさ!とダグがガハハと豪快に笑う。この豪快さと楽天的なところも獣人の特徴と言えるかもしれない。 「そうそう!今は珍しくても50年も経てば獣人を珍しがる人間もほとんどいないさ!」 確かに50年も経てば世界の人口の半分以上は、獣人が生まれた時からそばに居る世代へとなっているのだろう。 「流石に50年後にはファーネスもお嬢さん扱いして貰えないかもね」 「⋯まだまだ乳歯の生え変わったばかりの坊やには女の魅力はわからないのね?」 「イタタタタッ」 カナタの言葉にファーネスはにっこりと微笑みながらカナタの頬を力いっぱい抓りあげた。女性への年齢への弄りは種族に関係なく気をつけなくてはいけない。 午後は決まった予定は無かったが、ルゥはエリックに誘われランドニアの街にやって来ていた。 「護衛を付けたりはないのか?」 今朝の会食の時よりも大分装飾の少なく街中にも溶け込みやすい、しかし近くで見ると細部への細かな仕上がりにそれが上質であることがわかる服装に身を包んだエリックが横を歩くルゥへと問う。砕けた口調とその控え目な服装だと一見それが他国の国王だとは思われないだろう。 「護られる必要性がないからな」 「まあ獣人の王様だもんな」 不審な行動をする者がいれば誰よりも早く察知出来、かつ力でもそう簡単に負けることが無いだろうルゥに護衛は無用である。ただでさえ、今、ランドニアにはちらほらと獣人の姿が見える中でルゥを襲う者が居たとしても、それが成功することはないだろう。 「俺もルゥが一緒なら護衛は要らないと言ったんだがな」 「仕方ない」 一見周囲からは二人で歩いているように見えるが、実際は一定の距離を空けて10人程の護衛が付いている。エリックはルゥが一緒であれば護衛は不要だと言ったが、やはりまだ得体の掴みきれていない獣人ということもありその希望は通らなかった。 その事にエリックはルゥに対して申し訳なさを感じたが、ルゥはそれを当たり前の事だろうと理解していた。流石に一日や二日で王を任せれる程の信頼が得られるとは思っていない。 「お、ここだここ。ランドニアを訪れた時はここに足を運ぶと決めているんだ」 エリックに連れられて来たのはランドニアの街の中でも一際賑わう大通りから少し外れた、しかし王都だけあり人通りは多い。白い壁に目立った装飾や看板も無く、一見何の店なのかもわからなかった。 「ここへ来たことは?」 「いや。何の店だ?」 ランドニアに足を踏み入れて暫く経ったルゥだが、ここがどういった所であるのか知らなかった。というより、ルゥは食べ物を取り扱っている店にしか行くことがない。 店内はかなり静かなようで話声すら聞こえないためルゥは不思議そうに首を傾けた。 「まあ、入ればわかる」 ルゥの様子にハハッと軽やかな笑い声を上げながらエリックは扉を開け店内へと入っていった。ルゥもその後に続いた。 扉を潜ると同時にふわりと香る古紙の香りと壁一面、天井付近まで埋め尽くす書架にルゥは圧倒された。 「古書店か」 「そう、すごいぞここは」

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