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王の友人達
結局エリックだけがいくつかの本を購入し店を後にした。珍しい本ばかりのため一冊一冊がそれなりの値段がしたが、そこは一国の王である。懐から取り出された大量の金貨にオーブリーも慣れた様子で特に何を言う訳でも無かった。
その後少しランドニアの街を歩いてから二人は王宮へと戻った。途中いくつか店や出店に立ち寄りエリックに食べ物を奢って貰ったルゥは上機嫌である。
「小遣い制だから助かる」
「・・・王が小遣い制か」
旅をしていた頃はお金の管理はダグがしていたが、今はレジにその役目が引き継がれている。そして常に共に行動しているわけではない為、ルゥも自身の財布を持つことになった。が、すぐに買い食いに所持金を使い込むルゥを見兼ねたレジは一週間毎のお小遣い制を取り入れたのだ。
王とはいえ、自給自足の生活が基本の獣人達に財産が存分にあるなんてことはない。山で見つけた鉱石や捕まえた動物を売ったり、ランドール国内での仕事での賃金が資本となる。ルゥ自身も調査隊への参加で給料を与えられている身である。
「これから他国との交流が増えて仕事が増えれば俺の小遣いも増えるかも」
そうすれば今よりもっと買い食いが出来ると言うルゥに、エリックは最早謝礼は金貨などより珍しい食べ物などの方が良いのだろうかと思えてきた。
とはいえ、ルゥは持ち前の可愛がられ体質のおかげで小遣いを使い切ったとしても、街の人や王宮の料理人達から度々おやつを与えられており、欲求は十分に満たされていた。
ランドールの王宮に戻ると二人はそれぞれエリックはコーライアの使者達の元へ、ルゥはナラマの元へと向かった。
すでに何ヶ国かの王や使者達は自国へと旅立った。もっとゆっくりすればいいのになとルゥは思ったが、王様というものは忙しいらしい。普段、王として特に何をするでも無く過ごしているルゥとしては、ただただその事に感心する。
かといって性格上忙しなく物事に追われることは苦手であるし、ルゥの現状に文句を言う者もいない。
コンッコンッと重厚な扉をノックすれば中から柔らかな声が返ってくる。
「おかえりルゥ君」
「ん、ただいま」
室内に入るとそこにはナラマだけでなくクレバトスの王レナードと、カルディアの王テオドールがいた。今朝の会談で終わらなかった話の続きでもしているのかと、ルゥは出直すべきかナラマに視線を送る。ルゥがここへやって来たのは定期報告という名目の内容はほとんどただのお茶会である為、今すぐでなくてはならない訳では無い。
「あぁいいんだよ。難しい話はもう終わっているからね。今は楽しいお喋りの時間だよ。ルゥ君もおいで」
「なかなかこうして顔を合わせる機会は多くないからな」
「若者にはつまらないかもしれないが、まあおじさん達のお喋りに付き合ってくれ」
三人は年齢が近いこともあり、幼い頃から交流する機会も多く気心の知れた仲らしい。ナラマは誰に対しても同じ様に柔らかな雰囲気で会話をするが、レナードとテオドールにも似た雰囲気があり、王同士の会話というよりは友人同士といった方がしっくりくる。
「エリック殿下とのおでかけは楽しかったかな?」
「普段行かない店をいくつか回って新鮮だった」
エリックとは本屋の他にもいくつか店を回ったが、どれも普段ルゥが足を運ぶ店とは雰囲気が違い、多少は見知っていると思っていたランドニアのまた違う一面を見た気がした。
「彼は本当に他国の事情に詳しいな」
「暇さえあれば視察と称して自国や他国を歩き回っているらしいからな。先月はマラトスの土産を持ってうちに来たぞ」
「カルディアにか?真逆の位置じゃないか」
南にあるカルディアは強い陽射しが降り注ぐため、一年を通してランドールの真夏を超えるような暑さである。そしてマラトスはその正反対の北に位置し、最北端では一年を通して溶けない氷に覆われる程の寒さである。そんな両極端な場所にある国にふらりと足を伸ばすとは、なかなかフットワークが軽いという言葉では収まらない。
しかもそれらの国々で先程のように顔馴染みの店が出来る程の頻度で出歩いているのかと思うと、最早自国にいることの方が珍しいのではとさえ思えてくる。
「ルゥ君は何年もダグ君と旅をしていただろう。好きな国や印象に残っている場所はあるのかい?」
ナラマに訊ねられ、ルゥは旅をしていた日々の事を思い浮かべる。
「寒いのは嫌いだから北の方へはほとんど行かなかったけど、アルドナで初めて雪を見た時は感動した。あと、カルディアの料理が好きだ」
「それは嬉しいな!ルーファス殿は辛いのが得意で?」
「あの強めの香辛料が食欲を増す」
「朝も凄かったが、更に食欲が増すとはとんでもないな・・・」
朝の会食での様子を思い出したレナードとテオドールが驚きに表情を浮かべる。テオドールが治めるカルディアは、暑さに負けないように食欲を促進させる香辛料の効いた辛い料理が多い。寒さには弱いが暑さには比較的強いルゥは、実はカルディア料理を気に入り半年程カルディアに滞在していたこともあった。
そこまで気に入っていたが獣人の里の候補にすらならなかったのは、暑さが苦手な獣人もいることと、あまりの陽射しの強さで少しでも対策を怠ると、ルゥの白い肌が火傷の様に赤く水脹れになるという出来事が何度も起こったためだった。
「カルディアの人間の肌は陽射しに負けない強さだが、確かに君の白さでは我が国の陽射しは厳しいかもしれない」
テオドール含め、カルディアの国民は褐色の肌が特徴的と言える。そしてその国民のほとんどが赤みがかった髪をしているのですぐに見分けがつく。
カルディアのように国によってその見た目に特徴があるのは珍しい。あとはレナードの治めるクレバトスではレナードのような黒髪を持つ者が多いが、他国では黒髪は珍しい。
その他の国は見た目だけでどこの国の出身かを見分けるのは難しいだろう。かくいう獣人も半獣化を解いてしまえば、見た目の共通点は体格が良いということくらいしかない。
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