98 / 100
いい女とは
「では、我々も明日には国へ帰るよ」
「そうかい。また暫く会えないと思うとさみしいね」
「お互い王はやる事が多いからな」
あれから一時間程の間ルゥ達四人はお茶会を楽しんだ。初めに言っていた通り難しい話の無い、楽しい時間であった。
「ではまた後日、次は獣人の里で」
「お世話になるよ」
今朝決まった獣人の里への訪問は期間短縮の為に三カ国が同じ日程で滞在することとなった。そしてその第一弾がクレバトスとカルディア、そしてエリックのコーライアが来ることに決まった。
ルゥとしては王達の中でも獣人にかなり交友的なこの三カ国が初めというのは有難い。特にどの国が来たからと言って取り繕う気はないが、こうして多少気心の知れた三人が一緒となると楽しみでさえある。
ルゥもナラマの執務室を後にし、軍の練習場に顔を出しているレジ達の元へ向かう。日頃から軍の方へ顔を出しているレジとダグ、今日はイルダとカナタにファーネスの舞踏会に参加した五名が練習場にいた。
・・・しかもファーネスが兵士の一人と組み手をしているではないか。
「どういう状況?」
「お、戻ってきたか」
組み手をするファーネスと審判役なのか側にいるレジを除いたダグ達の姿を見つけ、周囲を囲う兵を掻き分け三人の元に向かったルゥがダグに声をかけた。
「いやな、俺達が軍の訓練に顔を出し初めて暫く経っただろ?たまには普段と違う相手との訓練も新鮮だろうと思ってな」
「それでファーネスと組み手?」
女とはいえ獣人であるファーネスは、鍛え抜かれた兵士と闘っても一対一で負けることは無い。だが、ファーネスとの組み手を提案したダグ達に兵士は獣人とはいえ女のファーネスと闘うことを躊躇った。しかし、それがファーネスの獣人としてのプライドに火をつけた。
「“ 遠慮も手加減もいらないわよ?私負けないもの”って。肉食獣の獣人相手に女だからってのは関係無いんだがなぁ」
「・・・獣人じゃ女の方が強いことも多々あるしな」
カナタは自分がファーネスと勝負すれば負けるだろうと想像し顔を顰める。ヤマネコの獣人のカナタとピューマの獣人のファーネスでは、獣の力だけで言えばファーネスの力の方が強い。そこに元々の身体能力やセンス、年齢など様々な要因が加わるので一概に獣の力だけでの優劣は決まらないが。
そんな事を話しているうちにも組み手は次々に行われ、そしてファーネスに敗北し敗者のペナルティである外周に向かう者が次々と出ていた。
初めは遠慮がちだった兵士達も、自分達が手加減をすべき相手では無いことがすぐに分かり、表情を引き締める。
「お疲れ」
「ルゥが見てるからつい張り切っちゃったじゃない。こんなに動いたのなんてきっと90年振りくらいよ」
ファーネスが少し乱れた髪を整えながらルゥ達の元へ戻ってきた。十数人と連続して組手をしたファーネスは息の乱れた様子すらない。その様を見た兵士達は改めて獣人の力が人間とは桁外れであることを実感させられた。
「この数ヶ月、俺達も多少なり強くなったと思ったんだがな・・・」
「レジさんやダグさん達に敵わないのはいつも通りだけど、ファーネスさんにまでここまでコテンパンにやられるとはぁ〜!」
エドワードとレオが悔しそうな顔でペナルティの外周から戻ってきた。最初こそ多少はファーネスが女であるという油断があったとは言え、それも一人目の戦いぶりを見て一瞬で気持ちを引き締めた。獣人相手に勝てるとまでは思っていなかったが、ここ数ヶ月の間にダグ達に鍛えられ強くなってきた自覚があったがために、この結果には自信が打ち砕かれたらしい。
「獣人はいい女ほど強いの。覚えておきなさい?」
「じゃあファーネスさんは獣人の女の人の中じゃ一番強いってことじゃないですか」
「レオ、あなた見る目あるわね」
実際に比べた訳ではないが、事実としてファーネスは獣人の中ではトップクラスであり、その上にはダグ達熊の獣人やレジ達狼の獣人などがいる。その頂点は勿論ルゥだ。
鍛錬を終えルゥ達は揃ってそのまま王宮を出た。本来なら急いで里に戻る必要も無いのだが、舞踏会での他国の反応を心配して待っているだろうカイオス達の為にも今日中に戻ることにしたのだ。
ルゥ達が揃って街を歩いていると何人もの住民に声をかけられ、それが当たり前になっていることに嬉しさを感じる。
ともだちにシェアしよう!

