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第5話

 手塚はここまで来て正気に返り、怖じ気づいていた。冷静に考えて、有り得ない状況だ。これはもしやハニートラップというかドッキリ的な何かで、翌日社員全員にしれるところとなって解雇、だとか、ヤバい想像ばかりが頭の中をぐるぐると回り始めていた。 「逆の方がいいなら言って。僕どっちでも大丈夫だから」  涼やかに笑う羽田の相好を、やっぱり崩してみたい。あの憎たらしいまでに余裕たっぷりの笑顔を、ぐずぐずにしてやりたい。 「シャワー、先にお借りします」  先ほどまでのおどおどとした雰囲気は消え去り、いくらか挑戦的にすら見える手塚が浴室へと消え、羽田は大きく息を吐いた。 「は……長かったな」  広報担当の羽田は、工場にだってよく出向く。手塚が今まで羽田を知らなかったのは単に周囲が見えていない、見ていないだけだったのだ。事実、羽田はずっと前から手塚のことを知っていたのだから。  同じ年頃の職人たちが雑談しながらちんたらと作業を進めているものもいる中、ひたすら一心不乱に框を縫い続ける手塚に目を奪われた。熱心な仕事への姿勢に感心したのももちろんだが、真っ先に思ったことは  あ、顔がいい  性的なことに関心がなさそうで禁欲的ところもまた、手に入らなさそうなものほど手に入れたくなる、狩猟本能をかき立てるものがあった。そんな中でも、手塚のギラギラとした眼差しには熱い何かを内包しているように思えたし、そのうち本当に性的な興味がないのかどうか、確かめてみたいとも思った。  だが羽田は決して行動に移すことはしなかった。下手を打って社会的な立場がまずくなるのはごめんだったし、ここは無茶せずチャンスを待とうと決めたのだった。そうして何年も虎視眈々と獲物を狙い、ついに今日、このときがやってきたのだ――

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