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第2話
買い物を終えてアパートの階下に自転車を停めている最中も、どこか夢心地でポーッとしてしまった。
芸能人と友達だなんてすごいなぁ。
どうやって知り合ったんだろう。修介くんは大学進学を機に上京して来たはずだ。何かツテがあったんだろうか。
あんな人が友達にいるだなんて、修介くんは心強いだろうな。
そんな時、ちょうど朝陽くんが授業を終えて学校から帰ってきた。
「おー耀 くん。どっか行ってたの?」
「あ、おかえり。うん、今スーパーに行ってきて」
「鍋の材料? 何鍋にすんの?」
朝陽くんは自転車のカゴに乗っている袋の中身を確認しながら嬉しそうに笑う。
付き合う前から、僕はこの人のお世話係。
料理がめんどくさいからといって度々食べることを放棄する彼が心配なので、僕が作って食べさせてあげている。
「鶏団子鍋にしようかな」
って教えてあげたけど、朝陽くんはそれには反応せずに僕の顔をじっと見てきた。
「耀くん、今何してたの?」
「え? 見ての通り自転車を停めてたんですけど」
「停めながら、すっげーニヤニヤしてたけど何かいい事あった? 俺、そこでしばらく様子伺ってたのに全然気付かねぇんだもん」
まさか見られていただなんて思いもよらず、恥ずかしくなる。
顔に出していたのも無意識だった。
隠すことでもないから、正直に話そうかと思ったけれど考えた。
藤澤 景と修介くんが友達なのだと勝手に喋っちゃったら、なんだか申し訳ない気がする。修介くんは少し焦っていた。てことはきっと、一緒にいるところを見られたくなかったのだろう。
だから彼らが友達だっていうのは伏せておいてあげようかな。
「実はさっき、芸能人の藤澤 景を見たんだ」
「え、マジで? なんでこんなとこにいんの? なんかの撮影とか?」
「僕もわからないけど、仕事じゃなくてプライベートって感じだったよ。同世代の男の人と歩いててさ」
「ほーん。どう? イケメンだった?」
「うんっ、テレビで見るよりも実物の方がすっごく格好良かった! 足が本当に長くてすらっとしてて、顔は人形みたいで小さくてさ! 同じ人間だとは思えなかったよ!」
興奮気味に言うと、朝陽くんは口をヒクッとさせて、僕のほっぺたを手でぎゅむぎゅむした。
「あしゃひくん、いしゃいれす」
「ほーん、なるほど。耀くんはそいつを見たから、ニヤニヤソワソワしちゃってたの?」
朝陽くんはちょっとイラついた声を出しながら手を離したので、僕は目を白黒させる。
あれ、もしかしてこれって……
「朝陽くん、怒ってる?」
「べつに」
朝陽くんはカゴに入っていた袋を奪い取って、一階の自分の部屋には行かずに階段を上り始めた。
いや、明らか機嫌悪くなってるし。
ちょっと笑っちゃったけど、とてつもなく嬉しかった。
朝陽くんも、負けないくらいに僕を好きでいてくれているってことだから。
はやく鍵開けろよ、と不貞腐れた声が降ってきたので、僕は面映ゆい気持ちで階段を上った。
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