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第6話
翌週。
出勤の為に部屋を出ると、修介くんも部屋の中からゴミ袋を持って出てきた。
見た瞬間、僕らは同じように目を見開いたので悟った。
あぁ、これ、絶対……聞かれてた。
「お、おはよう」
「おはよう、ございます」
故障したロボットのようにぎこちなく挨拶を交わしたあと、無言で階段を下り、僕は自転車置き場へ、彼はゴミ捨て場へ向かった。
背中を冷や汗が伝う。
何も言わない方が互いの為なんだろうか。
自分の嬌声が聞かれていたとしたら、恥ずかしくて耐えられない。
彼の頭の中から声を抹消したい。
悶々としている間に修介くんはゴミ捨て場から戻ってきて、再度僕と鉢合わせになった。
僕は生唾をごくりと飲み込み、階段を上ろうとする彼を恐る恐る呼び止めた。
「あの、修介くん」
びくっ、と面白いくらいに肩をはね上げた修介くんは、またロボットのような動きで首を捻った。
「は、はい、何でしょう……?」
「えっと、あのさ……」
羞恥のあまり、目をまっすぐ見れずに地面に視線を落とす。
いつまでも無言でいたら、修介くんの方から切り出された。
「あの、俺、ずっと気になってたんですけど」
「えっ、何を?」
「き、聞こえて、ました? 俺の……変な……」
こえ……と顔を赤く染めながら弱々しく呟いた修介くんに向かって「ご、ごめん、聞いちゃった」と素直に伝える。
「や、やっぱそうですよね! あの、一生のお願いです。このことは誰にも……」
ちょっと涙目になっていたので、僕は思い切り頭を縦に振る。
「もちろん! 誰にも言わないし、これから言うつもりもないよ! も、もう、窓を開けっ放しであんなことしたらダメだからね!」
「へ……あ、ありがとうございます! 気をつけます!」
修介くんは安堵したように表情を和らげて、僕に何度もペコペコと頭を下げた。
もしかしたら、周りにバラされるかもしれないと怯えていたのかもしれない。
やっぱり朝陽くんの言う通り、すぐに指摘してあげたら良かったのかもしれない。
「それであの、こっちも聞きたいんだけど……」
「はい」
「聞こえてた? 僕のその、変な」
「……すいません」
謝られ、白目を向く。
やっぱり……あの生意気小僧、覚えとけよ!
疑惑が確信に変わり、わぁぁと叫び出したい衝動に駆られるが、至極冷静に修介くんを見つめた。
「お互い、このことは忘れよう。僕は何も見てないし、何も聞いてない。修介くんも何も聞いてない。聞こえてたとしたらそれは夢。いいね?」
「は、はい。そうしましょう」
半ば強引に頷かせて、僕はその場を去った。
恥ずかしい嬌声を聞かれてしまった事実は変えられないが、修介くんもようやく心穏やかに暮らせるだろう。
それにしても、修介くんの声があんな風になるまで攻めるだなんて……藤澤 景って見た目どおりのサディストなのだろう。意地悪度合いは朝陽くんときっといい勝負だ。
ちなみに翌月、修介くんの嬌声がまた部屋から聴こえてきたので、今度はすぐに指摘してあげた。
☆END☆
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