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「ふふっ、聖夜くんお弁当美味しそうに食べてくれて良かったあ… 初めて作ってみたからほんとに不安だったの 」
「ええ!初めて作ったの?!そんなこと全然思わないくらい美味しかったよ」
「ほんと?いつも聖夜くん、柊木くんのお弁当すごくおいしいって言ってたから結構プレッシャーで… でもそう言ってくれてうれしい。」
(聖夜のやつそんなこと話してたのか)
思わず頬が緩む。
「翼の弁当も美味かったけど、優里の弁当はまた違った良さがあってこれが毎日食べれるなんてすごく楽しみだよ。今日もこのために学校来たんだぜ」
「………」
「どうした?優里?」
「聖夜くん… ほんとに柊木くんと仲良いよね。嫉妬しちゃうくらい…」
「えっ、まああいつとは物心つく頃には一緒にいたからな。」
「そっか…あのね、私と聖夜くんが付き合う前の話なんだけどね、私の友達にその…いわゆる腐女子って子がいるんだけど」
「あーー、知ってる知ってる。BLが好きな女子のことだよな?」
(あいつ知ってるのか。意外だな…)
「そ、そうなの。それで、その子が言うにはね、柊木くんと聖夜くんの2人は絶対に付き合ってるっていうの。」
(はぁぁぁ?!何言ってんだよ。その腐女子!!み、見る目があるな…)
「いやいやいや!!俺と翼が?!ありえないだろ!」
と爆笑する聖夜。
(うっっっっ、そんなに笑うのとないだろ!!聖夜のバカ!)
「あいつは、家族みたいなもんだよ。兄弟?みたいな。」
(まあ聖夜にとってはそうだよな… てかこの話いつまで続くんだ?結構ダメージ来るんだが…)
聞きたくないようなことまで聞きそうで逃げ出したいのに足が動かない。
「で、でも!!その子言ってたの!聖夜くんはともかく絶対に柊木くんは聖夜くんのことが好きなんだと思うって。」
(…は?)
背筋が凍った気がした。
「私も最初は何言ってんだって思ってたけど、弁当の件とか朝起こしてもらってることとか聞いてたらなんかそんな気がしてきちゃって… そう思ったら2人が一緒にいるところ見てるとますますそんなふうに思えてきちゃってずっともやもやしてて。 」
聖夜にどんな反応されるか怖かった。俺は自分の気持ちがバレることを1番恐れていた。でもそれと同時に、どんな反応をするのか気になってもいた。
(聖夜は、どう思うんだろうか…)
「翼が俺を…?」
俺は息を呑む。
「それはないだろ、ほんとに弁当の件も朝の件も日課みたいなもんだからやってくれてるだろうし… それに俺、男同士とか考えられない。普通に無理だろって思うし、もしものもしも翼が俺のこと好きだったとしても同じだよ。むしろ裏切られたって思う気がするな…
まあ翼に限ってそんなことありえないと思うけどな!」
「俺が好きなのは優里だけだよ。だから安心して?」
俺が1度も聞いたことのないような甘ったるい声を出す聖夜。
目頭が熱い。
わかってた。わかってたけど、やっぱり本人の口から聞くのはきついものがある。
俺はその瞬間走り出した。職員室に行かなければいかないのを忘れてしまうくらい、泣きながら。
こんな泣いたままじゃ家に帰れないと思い、近くの公園に行く。そこのトイレで散々泣いた。
(なんか最近、泣いてばっかだな俺。)
さっきの聖夜の言葉が、頭の中に張り付いて離れない。
「男同士とか無理。考えられない。」
そう言った聖夜の顔はどんな表情をしていたのだろうか。
聖夜への恋心を消したい。そう思うことは何度もあった。でも今日はその思いが一段と強くなったきがした。
落ち着いてきたので帰ろうと思い、鏡を見ると
(はっ、ひっでえ顔。)
泣き腫らして赤くなった目に泣き跡が酷い。
(こりゃあ誰にあっても泣いたことバレるな。でも聖夜にだけはバレたくないな。)
鏡の中を改めてみると泣きはらしてひどい顔をした、平凡な男。
俺がもし女だったら、かわいい女の子だったら。
あいつの隣にいるのは俺だったのだろうか。女になりたいと思ったことはなかったが、心底女が羨ましいと思った。
(帰ろ。)
辺りはすっかり暗くなっていた。
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家に入ろうとすると
「あれ?翼くん?」
と声をかけられる。
「透さん!」
「今帰ったの?おかえりなさい!」
「あ、はい。た、ただいまです… 透さんも仕事終わりですか?」
泣き腫らした顔を見られたくなくてつい俯きがちになってしまう。
「うん、そうだよお、今日も疲れたなあー。」
「お疲れ様です。じゃあおやすみなさい。」
顔を見られたくなくて家に入ろうとする。
「あ!ちょっと待って!弁当!!」
「え、あぁ!」
朝、渡した弁当箱のことだろう。
「ほんとにありがとねえ、美味しすぎてびっくりしたよーー。あれを毎日食べてた幼馴染くんがうらやましいよ」
そう言ってカバンから弁当箱を取り出す。
「いえ…… そんな大したもんじゃないですよ…」
傷心の俺には嬉しすぎる言葉で、また涙が出そうになる。
「あ、でも洗って返した方がいいか!また明日返すよやっぱり」
「いや、いいですいいです!食べてもらっただけありがたいんで。」
と言って弁当を受けとろうとするとひょいっとかわされる。
「…?」
不思議に思っているとそのまま、ぐいっと抱き寄せられた。
俺は一瞬何が起こったか分からず、5秒後くらいに透さんの胸の中にいることに気がついた。
(ん?え?!俺、今この人に抱きしめられてんのか?!)
思わず上を向くと、透さんと目が合った。
胸がどきっと高鳴る。
(やっぱり綺麗な人だ…)
そう思いしばらく見つめあっていると、はっと我に返り
「ちょっ、と、透さん?なんすかこれ…」
そう言うと、透さんは綺麗な顔でこう言った。
「そんな顔してる翼くん、放っておけないよ。」
「えっ……」
確かにこの時の顔は泣いたことなどすぐ分かってしまうくらいひどい顔だったと思う。
「話だけでも聞くよ?」
と透さんに言われて、よしよしと頭なでられる。
「ふっっ…、ぐふっうっ、ぐすっっ」
頭をなでられた瞬間、もう出ないと思っていた涙が溢れでてきた。
「うん、つらかったねえ…よーしよーし」
そういって透さんは俺の背中をとんとん叩いてくれた。昨日初めてあったばかりなのに何故かその声は酷く安心した。
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「散らかってるけどごめんねー、どうぞはいって!」
俺は散々透さんの胸で泣いたあと、透さんの部屋に招かれた。
「ず、ずみません。ほんとにいろいろと…ぐすっ」
ほぼ初対面の人に醜態を晒してしまったことを今更後悔する。
「ははっいいのいいの。はい、お茶しかないけどどうぞ。」
透さんの部屋は俺んちと同じはずなのに、あまり物が置いてないせいか広く感じた。
「あ、ありがとうございます…」
そう言って、ダイニングテーブルの椅子に座る。
透さんも俺の向かいの席に座る。
「翼くんが泣いてた理由、当ててあげよっか?」
と透さん。
「幼馴染くんでしょ。」
「ブッッッ」
思わずお茶を吹き出してしまう。
「ふふっ、やっぱり当たり?」
と笑顔でいう透さん。
「な、なんでっ!」
(俺、そんな素振り見せたか?!もしかして俺ってわかりやすいのか?!)
「それにさ…」
「君ってこっち側の人間でしょ。俺、わかっちゃうんだよねそういうの。」
「こ、こっち側って…どういう…」
「…こういうこと。」
透さんは、椅子から立ち上がり身を乗り出して俺の顎に手をそえて自分の方へクイッと引きよせた。
目の前に透さんの顔が広がって、彼の瞳に俺が映る。
(うっわ、顔ちっか… もしかしてこれキスされるのか?うわぁああぁぁぁぁあぁ)
そう思い思わずぎゅっと目をつぶると、
「ふっ」
と吹き出す透さん。
「ほんっとに隙だらけだなあ… そんなんじゃ俺に食われるよ?のこのこ部屋にもついてきちゃうしさぁ」
「くっ食う?!!」
(俺のことを食う?!ど、どういう食うだ…?)
「ほんとに分からない?」
とにやにやしながら透さんが言う。
「え、えっとわかりません…」
「えっちなことするって意味だよ♡」
「んなっ?!!」
俺の顔がゆでたこみたいに赤くなる。
「ははは!!!翼くんまっか!!!!」
と大爆笑する透さん。
「ちょっ、透さん!からかわないでください!!」
と俺が言うと、
「からかってないって言ったら?」
と今度は、真剣な顔で見つめられる。
「翼くんもこっち側、ゲイだよね?」
ごくっと俺は息を呑む。
「そ、それは… 」
俺が戸惑ってるあいだも目を離してくれない。
透さんの顔がさらに近づく。
(やっぱくそ顔面綺麗だな〜〜)
キスされてもいいかと思ってしまった。
唇がくっつきそうになった時、脳裏に聖夜の顔が思い浮かび我にかえり、思わず透さんの胸を手でドンッと押してしまった。
「すっすみません!!俺には聖夜がっっ!あっ…!」
とつい口走ってしまい、手を口で抑える。
「やっぱりね…」
と透さんが微笑みながらいう。
「あ、あの気づいてたんですか?俺、そんなわかりやすいっすかね…」
「んー、なんとなくこっち側の子かなって思ったのは、引っ越しの挨拶に行った時。」
「そ、そんな前っすか?!」
「うん。さっきも言ったけどなんとなくわかるんだよね。こっちの界隅にはそういう人多くてね。翼くんもなんか感じなかった?」
たしかにあの時は透さんと俺が、同じ匂いがするような気がしたのだった。
(こういうことだったのか…)
「たしかに似ているようなそんな感覚ありました。」
「やっぱりか〜、あとは聖夜くんのお話した時かなー。彼女がいてってやつ。あの時すっごい悲しそうな顔してたんだよ、翼くん。それで、さっきの泣き顔見てほぼ確信したって感じかな。」
そうか。そんな前から気づかれてたのか。
(俺って結構わかりやすいやつだったんだな…)
これからはもっと気をつけようと思った。
「いやーそんな分かりやすかったんすね… 一応これでも隠してるつもりだったんすけど…」
「わかりやすくてもいいんじゃない?俺は、翼くん見てて健気で素直ないいこだなーって思ったよ?」
「えっ?!そうすかね… 俺なんか聖夜の前じゃ全然素直になれなくて、そんな自分が嫌になりますよ…」
「好きな子には意地張っちゃうタイプかーー、やっぱかわいいよ翼くん!ほんとに食べちゃいたいな〜」
とニヤニヤしながら言ってくる。
「もう!だからからかわないでください!」
と顔を真っ赤にして言うと
「さっきも言ったけど、からかってないよ?俺は真剣に、翼くんのこと可愛いと思ってるし、翼くんがいいならほんとに抱いちゃいたいくらい!」
「だっっ抱く?!」
「うん!」
と、透さんは満面の笑みでいってくる。
「まあでも、無理やりとかはしたくないし幼馴染くんにぞっこんみたいだし?無理に手は出さないけどさ。寂しくなったらいつでも言ってね!俺はいつでも大歓迎!」
そう軽く言ってくる透さん。
「遠慮しときます!!! 」
と、つい強めに言ってしまう。
「でも透さんってそういう経験って豊富なんですか…?やっぱり…」
「え〜?そういう経験って〜?」
とまたまた楽しそうに聞いてくる透さんをじっと睨む。
(透さんってめっちゃ意地悪な人だ!)
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