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「あ、翼くんおはよう〜」
「おはよーございます。」
あの日から一週間がたち、朝こうやって弁当を渡すのもだいぶ慣れてきた。
「毎日ありがとね〜、今日の弁当なんだろうなぁ。楽しみだよ!」
「いえっ、そんな大したもん入ってないんで!」
この一週間で、何回か透さんの家に遊びに行って仲はだいぶ深まってきていた。
すこし話し込んでいると、
がちゃっと音がして
「翼?」
ドアからでてきたのは聖夜だった。
「せ、聖夜?!どうしたんだよお前、いつもこの時間まだ寝てんのに。」
「いやなんか、今日はすげえ目覚め良くて早く起きちゃったんだけど外から翼の声が聞こえてさ、なんだろうと思ったんだよ」
うちのアパートは結構安いものなので外部からの音が聞こえやすいのだった。
「真野さんのところの息子さんだよね?おはよう〜」
と透さんがいう。
「おはようございます!えっと、確か最近引っ越してきたっていう…」
「太宰透さんだよ。」
と名前がでてこなくて困ってる聖夜に助け舟をだす。
「あ、そうだ!太宰さん!」
「うん、そうだよお、よろしくね。」
「はい!こちらこそ!2人はこんな時間になにしてたんですか?」
「えーと…」
俺が返答に困っていると
「翼くんが弁当作ってくれて、それを受け取ってたんだ〜」
「え?翼が?」
そう言う聖夜にじっと見られて、悪いことはしていないはずなのに何故か罪悪感を感じる。
「この前、癖で間違えて二人分作っちまってもったいないから食べてもらったんだよ。」
「そうそう!翼くんの作った弁当すごく美味しくて!これが毎日食べれてる俺は幸せだよ〜」
そう透さんに言われて、思わず頬が緩む。
「そうだったんすか!いやーわかります。翼の弁当ってめっちゃうまいんすよー、分かってくれる人がいてうれしいです!」
聖夜にもいわれてさらに頬が緩んだ。
(やっべえ、俺今絶対キモイ顔してる。)
「じゃあ俺はそろそろ行くね〜、あっ翼くん今日もおいでね♡ 待ってるよ。」
そういった後に耳元でふ〜〜と息を吐かれ
「んっぁ」
とまた俺は変な声がでてしまった。
「ちょっと!!透さん!」
(聖夜がいるのに!!!だらしない声だしちまったじゃねえか!!)
透さんは人との距離が近い人なのか、俺は、遊びに行くと大体耳をいじられるかほっぺにキスをされていたのだった。
その直後、聖夜に肩を引き寄せられて俺の背中と聖夜の胸がぴったりとひっつく。
「せ、せいや??」
聖夜を見上げてみると、髪が顔にかかってよく表情が見えなかった。
「はははっ!じゃあ翼くんも真野くんもまたね〜」
「はい、また!」
と笑顔でいう聖夜。
でもちらっと見えたその笑顔は、俺の好きな笑顔じゃなくて
(なんか…聖夜怒ってる?)
そう思えるほどその時の笑顔は少し怖かった。
***********************
「翼…あの人と仲良いの?」
「へっ?あ、そうだな。弁当返してもらう時に相談とか乗ってもらってんだ。いい人だよ。」
昨日も、透さんといろんな話をして盛り上がり楽しかった。それを思い出して自然と口角が上がる。
「…ふーん。でもまだ会って1ヶ月もたってないだろ?そんなすぐ信用するの翼の悪い癖だぞ。」
と、不機嫌そうな聖夜。
(なんでこんなにイライラしてんだ?!そんなに透さんが気に入らなかったのかな…)
「それに… 相談ってなんだよ。俺、翼に相談するような悩みがあるなんて知らなかった…」
「いやっ!それは!気にしないでくれ… 悩みなんてねえって。日頃の愚痴とかをだな、聞いてもらってるってだけなんだ。」
と、必死に誤魔化す。
「……… それに、弁当だって…」
(弁当?)
「もし翼がいいなら、俺が食べたかったよ!!2個くらい全然食えるし… 翼の負担を減らせると思ったからあーやって言ったけどほんとは今でも翼の弁当食べたいよ。」
思いがけない言葉に俺は大きく目を開く。
(そんなこと思ってたのか… てかこれってもしかして…)
「お前、もしかして妬いてんのか…?」
そういった瞬間、聖夜の顔が真っ赤になる。
つられて俺の顔も赤くなる。
(ま、まじか… 聖夜がやきもちを…)
「うっさいな!だって翼、最近優里のこともあって一緒にいる時間少なくなっただろ?だから俺、朝早く起きればそういう時間増やせるかなって思って早起きしたのに、そしたら隣の知らない男と仲良くなってんだもん… しかも弁当渡してるし…なんか距離近いし…心配にもなるだろ!」
と、一気に喋って聖夜が息切れする。
(ま、まじか… そんなふうに思ってくれてたんか…)
俺と同じ意味じゃなくても、寂しいと感じてくれてたことが嬉しくて仕方がない。
「うわ!!にやにやしてんだけど!!俺、心配してんだかんね!?」
無意識に顔がにやけていたらしく聖夜にいわれて気づく。
「悪かったって!!心配してくれてさんきゅな。その… 俺も最近お前と話せてなくて物足りなかったからよ、素直に嬉しいよ。」
と、頑張って素直な気持ちを口にする。
「つぅうばぁあさぁあぁぁぁ」
と叫ぶ聖夜にそのまま思いっきり抱きしめられる。
「ふぁっ?!何してんだよ?!おまえ!!」
「んー?やっぱ翼がいないと俺ダメだなって。」
「はあ??」
「翼、俺のずっとそばにいてよ。」
胸がドクンと高鳴る。
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