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6.5
聖夜視点
「ホンットに最低だ…俺…」
翼の家から自分の家に帰ってきて、俺は自己嫌悪に陥っていた。
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「ちょっ、せいやぁん」
ほんの出来心だった。翼の耳が赤いのがおもしろくて、からかってやりたかっただけだった。
(なんだ?今の声)
「…わりい、なんかきもい声でちまった。」
目をそらして恥ずかしそうに口を抑えながらそう言う
翼の瞳は潤んでいてなんだか、、、
(えっろ…)
そう思ってしまった。もっと、翼のそんな顔を見てみたいと思った。
今度は、両耳の裏側を同時に擦ってやる。
こすっこすっ
「んんぁんっ」
聞いたことのないような、腰に響く翼の甘い声。少し息が荒くなって顔が赤くなっている翼をみて、もっといじめたい。声を聞きたい。そう思った。
(どうしよう… 翼が、かわいくみえる…)
「翼、耳弱いんだ…?」
「え、あ、えっと…」
しどろもどろに戸惑う翼に愛しさを覚える。
(なんかほんとにかわいいな… どうしちゃったんだろ俺。でも前もこういうことあったか?)
その時頭に浮かんだのは、少し前、翼の隣に引っ越してきた怪しい男、太宰透。俺はあの男がどうしても好きになれないのだった。あの人の話する時の翼は、俺には絶対にしてくれないような心を許しきった顔をしている。それがどうにも気に入らないのだった。
(そうだ、あの男も。)
知っていた。翼の弱点が耳だということを。
「そう言えば、あの時も───」
「翼、耳いじられて感じてたよね…」
それを思い出すと、俺の心にはどす黒い何かが広がっていって、わけのわからない憤りが胸の奥に湧いていった。気づけば翼の腕を掴んで押し倒していた。
翼は、あの人にとても懐いているように見えた。そして、部屋にも何度も遊びに行っていることも聞いた。あの人には、あーゆーことを毎回されているのだろうか。もしかしたら俺の知らない翼の顔をもっと知っているのかもしれない。そう思えば思うほど腹が立ってきて仕方なかった。翼が抵抗するほど、拒否られているように感じて余計にむかついた。めちゃくちゃしてやりたいと思った。
「せぇやっ!どうしたんだよっ、こわいよっ」
その声で、はっと我に返るとそこには今にも泣きそうな顔をした翼の顔があった。
「ご、ごめんっ!まじでごめん… 俺、どうかしてた…」
(お、俺はいま翼に何をした?)
俺はいま最低なことをした気がする。勝手に苛立って、押し倒して、怖がらせて、泣かせて。
(最悪すぎんだろ…)
「いや、いいよ… お、お前、たぶん俺のこと優里ちゃんと間違えてたんだろ!しょうがねえやつだな、もうしてくんなよ!変態魔人め!」
必死に、そう取り繕う翼を見て本当に申し訳なく思う。
(そうだ… 俺には優里っていう存在がいるのに)
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その後は逃げるようにして自分の家に帰ってきた。自分でもなぜあんなことをしてしまったのかわからない。
だけど多分あの瞬間、俺は翼に欲情していた。
(翼は男だぞ…… ありえないだろ…)
きっと欲求不満だったのだろう。そう思うしかなかった。男に欲情したなんてとても受け入れられなかったから。
(ちゃんとまた翼に謝ろう… それで、今日のことは忘れてもらおう…)
そして俺は、「彼女」に電話をかけずにはいられなかった。どうしても、今、声が聞きたくなった。
「優里…?」
「うん… いきなりごめんね… いや、特に用事はないんだけどさ」
「優里に無性に会いたいなーって思ってさ。」
「いや!流石に今日は遅いし大丈夫だよ、声も聞けたし満足。」
電話越しの彼女の嬉しそうな声を聞いて、思わず頬がゆるむ。
大丈夫。ちゃんと優里のことが好きだ。俺は正常だ。
そう自分に言い聞かせながら俺は優里に言うのだった。
「優里、今度家に泊まりにきてよ。」
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