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「…てことがあったんすけど…」
聖夜と遊びに行ってから3日。俺は、透さんの家に遊びに来ていた。
「ふふっふふふはふふははははっはは!」
俺の話を聞くと、透さんは大笑いし出した。
「ちょっ、透さん?!俺真剣に悩んでるんすよ?!」
「そうだったね、ごめんごめんよ、あまりにも面白くて…」
透さんは目に涙をためながらそう言う。
「そんな面白いことっすかね…?」
「いやーあの幼馴染くん、明らかに翼くんに執着してるからさ… まあ近いうちになんかあるんじゃないかなーって思ってたんだけどまさかホントになるとは…ふふふふふ」
透さんはまだ笑っている。聖夜が俺に執着?そんなわけない。
「執着なんて… なわけないじゃないすか。」
「え。あんなわかりやすくて翼くん気づいてないの?」
「え?なにがっすか?」
「はぁ… 翼くんもにっぶいね??」
俺の頭の中には?が思い浮かぶばかりでなにもわからない。
「まあいいや、翼くんはなんかそのままでいてよ」
「ええ、なんすか!!気になるっす」
「翼くんさ、もういっそ告っちゃえば?」
俺の話をスルーしてきた上にとんでもないことを言い出す透さんはやっぱり変わっている。
「は、はあ?!なにいいだすんすか?!」
「いや、さ。好きってことまでは言わなくていいからさ、自分の恋愛対象が男ってくらいは知ってもらっといたら?って」
「そんなん… 気持ち悪がられたら俺… 立ち直れないですよ…」
「そうかなぁ… まあ言うか言わないかは翼くんしだいだけどさ、少しは気が楽になるよ?」
「まあ… 考えてみるっす。」
(いつか話すって言っちまったしな…)
「あれから聖夜くんは普通なの?」
「はい…まあいつも通りっすね。」
あの日の翌日。俺は、ものすごい勢いで聖夜に謝られた。俺も嫌だとは思ってなかったしむしろ嬉しかったので、謝られるのは複雑な気持ちだった。それからは、ほんとに何事もなかったかのように接している。元に戻ったって感じだ。俺にとってはよかったのか悪かったのかわからない。でも、やっぱり少し寂しかった。
「まあ欲求不満だったんすよ多分。あいつ未だに童貞みたいだし。」
そう。あいつはまだ優里ちゃんとしたことがない。もししたなら絶対に言ってくるのでこれは確かなことだ。結構それは俺には大きくて、まだ聖夜が近くにいるような気がした。でもきっといつかは超える一線だ。その時俺がどんな風になるかなんて、考えられないし考えたくない。
「ノンケって残酷だよねえ… 俺、絶対にノンケだけは好きになりたくないもん」
「それ俺に言います…??」
「翼くんほんとにすごいと思うよ。うん、尊敬する。」
あんまり褒められた気がしないのだが…。
「そういえば、透さんってなんのお仕事してるんすか?ふつーにサラリーマン?」
ずっと疑問に思っていたことだった。透さんは、俺の相談にものってくれるし、同じ嗜好の持ち主としてもとても話しやすい相手だったが、ここからは入らせないよと言われてるような壁を感じることがよくあって、どんな仕事をしているのか、交友関係なども、本当に何も知らなかった。
「え、唐突だね?」
「いやーそういえば聞いたことないなって思って。」
「ふふふ、知りたいの?」
と、不敵な笑みをうかべて、こちらをみる透さんはやっぱり色気があって、かっこいいなって思う。
「別に、言いたくないならいいっすよ。」
「ふふっ、翼くんのそういうとこ好きだよ。まあ決して怪しい仕事じゃないから安心してよ。」
「でも透さん、話聞くのうまいからカウンセラーとかやってそう。」
「あーでもちょっとかすってるかもちょっとだけ」
「ちょっとだけかよ!」
こうやってお互いに深く入り込まず、気楽に話せる透さんの隣はとても居心地がよかった。
「でも俺、感謝してるんすよ。透さんいなかったら俺今頃壊れてるかも。」
と、笑いながら言ったがこれは割と本当の話だった。
自分では気づいてなかったけど、聖夜に彼女ができてからはほんとに辛くて崩壊寸前だったと思う。
「だから、透さんも困ったこととかあったらいつでも相談してくださいね?」
それを聞いた透さんは目をぱちぱちさせている。
(あれ?俺なんか変な事言ったか?)
「と、透さん?」
「あっ!いやごめん、そんなこと言われたの初めてでびっくりしちゃった。俺よく悩みなさそうって言われるから。」
「まあ確かにパッと見そう見えますけど、なんかたまに壁感じるんすよね。それが俺的には、さみしいと言いますか… 俺はこんなにかっこ悪いとこ見せてんのにくっそ恥ずいじゃないですか… だからたまには、弱いとこ見せてくれてもいいんじゃないかって思って。」
「そういう風におもってたんだ…」
「余計なお世話だったらすんません…」
「ううん… ありがとね…」
そう言ってふにゃっと笑った透さんの顔は今までで1番素敵な笑顔だった。
「いつもそういう風に笑えばいいのに。」
「えっ?」
「透さん、美人だから余計かもしれないけどいつも作り笑いっていうか目が怖いんすよ。それ笑ってなくない?みたいな。」
「うーんと… 俺、もしかして貶されてる?」
「いや違くて!!そういう風にいつも笑えばいいのにって。俺、今の笑顔の方が好きっす。無理してわらうことないと思いますよ。」
「……………」
(なんか、臭いこと言いすぎたか?俺…)
透さんの反応がなくて戸惑う。
「翼くん…鈍いくせに生意気……」
口を尖らせていう透さんは可愛くて、なんだか前よりも壁がなくなった気がして俺はとても嬉しかった。
「へへっ、生意気ですんません!!」
「…… じゃあ、ちょっとだけ甘えさせてよ。」
「え??」
「だから!俺今日仕事で色々あって疲れてんの!だから甘えさせてって言ってんの!」
そういう透さんの顔はいつもよりほんのり赤い気がする。
「いいっすけど、なにすればいいんすか?」
「はぐ…」
「え?なに?もういっかい、うわぁっっ」
何を言ったのか聞き取れなくて、もう1回聞こうとした瞬間、腕を引っ張られて気づいたら透さんの胸の中にいた。
「ちょ、ちょ透さん?!」
「甘えさせてって言ったでしょ…」
甘えさせてってこーゆーこと?!と思いつつも、透さんの胸の中はあったかくてなんだか安心した。
(透さんがこんなんになるなんてよっぽど疲れてたんだな)
頭をゆっくりよしよしする。あの時の透さんがしてくれたように。
「こんなんでいいならいつでも相手するっすよ…」
透さんは何も言わなかったが、俺を抱きしめる腕の力が少しだけ強くなった気がした。
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かれこれ10分くらいこのままだ。
「透さん?これいつまでやるんすか…?」
透さんは答えない。
「透さん?もしかして寝てる…?!」
「と、透さーん?」
背中をたたいて起こそうとする。
「うーんんん」
「透さん?起きて??」
俺はすっかり油断していた。
ぺろっ
「んぁっ?!」
「ふふふふふ、やっぱり耳弱いね?翼くん♡」
(こっこのひと… 寝てるふりしてまた俺の耳舐めてきやがった…!!)
「な、なにするんすか!!変な声出ちゃったじゃないすか!!」
「えー?可愛い声だったよ??」
そう笑って、からかってくる透さんは、さっきまでのことは嘘だったのかと思うくらいいつもの透さんだった。
一時期は、あの弱気な透さんは、夢だったんじゃないかと思ったが、週に1度、「ハグタイム」と呼ばれる時間が恒例になったのはまた別のお話。
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