5 / 322
第5話
「ふぁ〜…ん……」
寝みーな……。
欠伸を噛み殺しながらいつもより早い時間帯の電車に乗った。
……涼真の事を考えてたら…眠れなくなってしまった……。
「ガキ…だな」
いつもより気持ち穏やかなラッシュアワー。
人の波に緩く押されながら電車を降り改札を抜けた。
「あ、コーヒー買ってくか」
ふと目に付いたコーヒーチェーン店でホットコーヒーを買い、そのまま会社のドアをくぐった。
俺の所属する営業戦略チームは自社ビルの三階にある。
所属する人間は少なくないのだが普段はそれぞれの拠点に散らばって仕事をし、必要な時だけオンラインで会議をする。
だからここでの人員は三人のみ、だ。
まだ始業まで小一時間。
誰もいない廊下を歩き多目的ルームのドアを開けた。
人気の無い空間。
カップの蓋を開けてコーヒーの匂いを胸いっぱい吸い込んだ。
「そう言えば……涼真はまだコーヒー飲めないのかな…」
数年前の記憶が随分と昔の事のように感じた。
俺が生まれた頃は近所に小さな子供がいなくて親はその状況を心配していたようだが、三歳ぐらいの時に涼真の家族が隣に引っ越してきた。
涼真に興味津々の俺と、俺の興味に引き気味の涼真。
だが同い年の男だ、すぐに仲良くなって一日中二人で過ごすようになった。
涼真の家は共働きで一人っ子の彼は親が帰ってくるまで、よく家で一緒に遊んだ。
母はよく、二人も三人も同じよ、と言い、涼真と俺と姉の三人を兄弟として扱った。
あの頃俺は涼真の事を全て知っていたし、離れる事は無いのだと何の根拠もなくそう信じていた。
ともだちにシェアしよう!