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第6話
子供の頃は一緒に学校に行き、終われば帰り道の途中にある公園で日が暮れるまで遊んだ。
服を汚して家に帰れば二人で風呂に放り込まれ、全身泡だらけにして笑いあった。
同じ釜の飯を食い、遊び疲れて同じ布団で眠る。
いつも一緒。
ずっと一緒。
そんな幸せが続く訳無いのに、その時の俺はそう信じて疑わなかった。
「あ〜思い出すよ……小柄で可愛いくて……おっとりしてるんだけど言い出したら聞かない……」
「何?彼女?」
「うおっ!…と〜、コーヒー零れたらどうすんだよ」
いきなり肩を叩かれ湯気が不規則に揺れた。
「朝からノロケてるからさ」
「違うって。思い出に浸ってんの」
「ははっ、朝から笑わせんなよ」
優雅なコーヒータイムが同期の中黒(なかぐろ)によって邪魔された。
「で、どうなの?コレ?」
そう言って中黒は左手の小指を見せた。
「違うって」
「じゃ、こっちか!」
今度は親指を見せる。
一瞬肩があがってしまった。
だが中黒は気付いた風はない。
「そんなの、どうだっていいだろ」
「良くは無い」
中黒はそう言って俺の肩を組み顔を耳元に寄せた。
「合コンすんだよ。で、メンツ集め」
「ゲッ、ヤダ、行かない」
「香束(かづか)、な。一緒に行こ♡」
ハート飛ばしてんじゃねぇ、気持ち悪いんだよ。
「俺、そーいうのちょっと…苦手なんだって…」
「お前イケメンだから女寄せにいいんだよ」
「パンダかよ!」
態度でも言葉でもグイグイと押してくる中黒を押し返し、何の気なしに見た扉の向こうに人影があった。
あれ、涼真?
ガラス越しに目が合った途端、涼真は扉の前から離れていった。
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