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第11話

「や〜あん…うぇぇん…」 涼真の胸から剥がされまいとワイシャツもネクタイもその小さな手で掴んで離さない。 「真咲、顔見せて。ほら着替えられないよ」 どんだけ虫の居所が悪いんだか、一向に言うことを聞かない。 「なあ、何かあった?それともいつもこうなのか?」 「普段はこんなにグズらないけど…真咲、泣いてたら分からないよ」 …泣いてなくても俺には分からんがな。 「もうそのまま寝かせるか。泣き疲れてるだろうし」 眉間に大量の縦じわを発生させて涼真は苦悶の表情を見せた。 「涼真、これは?」 俺は棚の上に置かれた籠からビニールに入ったせんべいを渡した。 「ソフトせんべいか…これなら食べるかな。真咲、お口あ〜ん」 さっきよりは幾分大人しくふえふえと泣いている。 眠いのか目をゴシゴシと擦りながらパカッと口が開いた。 「ほら、モグモグ…ん、よし食べられたな。郁弥、その黄色いコップに水汲んで」 流行りの電気ネズミのコレか。 「ほら」 「そこに蓋あるから、そう」 言われた通りにパチンと蓋を嵌めて渡すと、涼真は子供に話しかけながら口元に持っていった。 「真咲、ちゅーして」 …ちゅー…いい大人がそんな可愛い言葉使うんだ… 子供は言われた通りに口に水を含み、飲み下した様子だ。 「ねんねしような」 さっきより穏やかな顔で、涼真は子供を抱えたまま部屋を出ていった。

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