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第14話

息が苦しい。 肩を大きく上下させて新鮮な空気を取り込む。 タクシーは拾えず、結局ここまで走ってきた。 時間帯を考えて敢えて呼び鈴を鳴らさずドアノブを捻ると鍵は開いていて、俺は迷わず部屋に上がった。 奥の寝室に涼真はいた。 人の気配でこちらに振り向き、心配そうな瞳が俺を見つけた。 「悪い…こんな時間に」 涼真は落ち着かない様子で俺と子供の顔を交互に見遣る。 「そんなの、いいんだ…で、どう?」 「熱が…八度を超えて…眠りが浅くて…時々泣くんだ」 「吐いたりひきつけを起こしたりは?」 「…わからないけど…多分無い」 俺は医者じゃないし子供の面倒も見たことが無い。 でも、感覚的に緊急事態ではなさそうだ。 「かかりつけとか…救急病院とかは?」 俺の問いかけに目を逸らすが…ゆっくりと話し出した。 「実は…一緒に暮らしはじめてまだ病気したこと無くて…」 「分からないのか」 朝まで待つか…救急病院に行くか…。 「ちょっと待って…」 俺は携帯電話を取り出し、画面をタップした。 「……あ、俺、ゴメンこんな時間に。うん…子供が具合悪くて…俺じゃない、涼真の子供!…うん、いい?ありがと、恩に着る…。涼真、行くぞ」 「…どこに?」 「病院だよ、支度して。保険証忘れんなよ」 右往左往している涼真にあれこれと指示を出し、俺は発熱に喘ぐ子供に手を伸ばした。

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