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第15話
「風邪かしらねぇ。あらぁ〜真咲くん、偉いね〜泣かなかったねぇ」
優羽(ゆう)は診察を終え、慣れた手つきで子供にパジャマを着せる。
「夜中にすみません。家にまで押しかけてしまって」
「いいのよ涼真」
「姉ちゃん、ありがと。今度奢るから!」
「郁弥には後でメールするからね」
うわ…高くつくな…。
俺の姉、優羽は医者。
このマンションの一階で開業している。
しかもそのマンションの最上階に住み、偶然にも俺も同じマンションに越してきた。
「本当にありがとうございました」
「薬はこれしかないから、朝になったら小児科を受診すること。ウチで診てもいいわよ」
おお、医者みたいな事言ってる。
ま、その通りだが。
「ぱぁぱ…」
「真咲、優羽先生にありがとうだよ」
熱で潤んだ大きな眼で優羽をみる。
「あーと」
「お利口さんね。お大事に」
薬で体がラクになったのか、幾分機嫌はいいようだ。
診察を終え、玄関で靴を履く涼真の体がガクンと揺れた。
だが抱いていた子供をしっかりと抱えている所はさすが父親。
「大丈夫か?」
「うん…安心したら…今頃震えてきて…」
初めての発熱に随分と緊張したんだな。
「俺の部屋すぐだから休んでいけよ。このままじゃ危なくて帰せない」
ひどく最もな事を言うと涼真もそう思ってくれたのか少し考えてから顔を上げた。
「悪いな…郁弥。ちょっとだけお邪魔する」
…よしっ!
「散らかってるけどゆっくりしていけよ」
ニヤつく顔を気合でどうにかし、優羽の部屋を後にした。
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