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第16話
「ダン箱が積んであんのに、なんでこんなに部屋が片付いてんだよ…!」
「え?そうか?」
寝室に入るなり涼真は驚きとも怒りとも取れる言葉を言った。
各部屋にダン箱が数個づつ置いてあるが…それ以外物が散乱している事は無い。
涼真は放っておいて俺はシーツの上にバスタオルを敷き、子供を寝かせる準備をする。
「ほら、ここに寝かせて」
「うん。真咲、ごろんするよ」
「ぅうん……」
ベッドに寝かされるとくるりと向きを変え、小さく丸まった小さな体。
すぐに規則正しく肩が揺れる。
「…なんか…いろいろ…ありがと」
「いいんだ。…嬉しいから」
「俺…真咲の父親なのに…全然役に立たない…」
顔をくしゃっと歪ませて、唇を噛む涼真。
「…りょう…」
涼真に向かって伸ばした指は途中で目標を失った。
くるりと後ろを向いた涼真の背中が小刻みに震えている。
「…いいんだよ、涼真。この子がお前を父親に育ててくれるんだから…」
「…ん、…そ…かな…」
今はそっとしておいた方がいいんだろうか…。
「俺は居間にいるから少し休めよ。子供と二人ならベッドで眠れるだろ?」
そう言って俺は涼真に背を向けた。
…うん…
扉を閉める直前、消え入りそうな声が耳に届いた。
「…はぁ…」
居間のソファーの背もたれと肘掛けを倒し、二枚重ねた毛布を被った。
「ソファーベッドが役に立つとは…」
急に日本に帰国する事になった俺は、住む部屋と家財道具選びを姉の優羽に丸投げした。
優羽は医者だがその夫の貴志(たかし)さんは不動産会社の跡取りでその道のプロ。
多少融通を効かせてくれたのだろう、予算内で部屋を選びしかも家具の見立てのセンスもいい。
依頼して十日程で全てを整えてくれたおかげで、俺は帰国早々ホテル住まいをせずに済んだのだ。
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