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第17話

「きゃーぁ!」 「…!」 ビックリした…。 甲高い雄叫びと共に顔にぬるりとした感触。 「あー!真咲!何してんだ?郁弥ゴメン」 「あぁ…うん…だ、大丈夫…?」 恐る恐る顔に当たっているものに触れると、それは小さな手。 うわっ! ぬるぬるしてる…ってコレ涎か…! 「真咲、お部屋から出たらダメだろ?パパビックリしたよ」 子供を抱えあげて同じ目線で語る涼真は俺から見て立派に父親している。 うん。 大丈夫。 のそりと起き上がってソファーを元に戻す。 涼真は子供の手や顔を拭いて着替えさせ始めた。 「朝飯作るから食べて行けよ」 「いいのか?…悪いな」 「子供…真咲の具合は?」 「大丈夫みたいだけど心配だから朝イチで病院連れてってから出勤するよ」 「そっか。ところで涼真、子供って何食べんの?」 一瞬涼真がキョトンとした顔をした。 「大人と同じもの食べてただろ?小さくすれば食べられるよ」 そう言って笑った顔は子供の頃と同じ、懐かしい顔だった。 「本当にいいのか?」 「ああ。優羽さんに悪いし」 「…そっか」 朝食を終え、診療が始まる前に優羽に診てもらえばいいと言ったのだが…涼真は俺の申し出を断った。 ま、そういう奴だよ、涼真は。 「俺、会社行くけど何かあったら連絡して」 「分かった。ありがとう、郁弥」 「真咲、またな」 「あー」 人懐こい笑顔。 ちゃんと見れば涼真によく似ている。 面長な輪郭と少し垂れた目元。 「終わったら行くから」 俺はそう言って涼真と別れ会社に向かった。

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