19 / 322
第19話
急ぎの案件が無い事と、俺の体調が加味されて本日は定時退社。
よし。
俺は電車に飛び乗り涼真の部屋に向かった。
だが…はたと気がついてしまった。
同じ会社で働いてるんだから社内でも会えるじゃん!
何だよ…俺…。
でも今更会社に戻るのもアホだしな。
仕方ない、いつものスーパーに行こう、電車の手すりに体を預けながらそう決めた。
「あー!ぱぁぱ!うー…」
「真咲、そんなに身を乗り出したら落ちるよ」
「あー、あー!」
「ほら…わぁ!すみませ…ん?郁弥?」
子供が乗れる買い物カートから落ちる寸前の真咲が掴んだのは俺の服。
「…よっ!」
「買い物か?」
「…まあな。真咲、ハンバーグ食べたい?」
「あー!ぱぁぱ!」
途端に瞳がキラキラと輝く。
だが真咲とは対照的に涼真の表情は暗い。
「俺は…作れない…」
「作ってやるから材料揃えよう。こっち」
「え…でも…」
「いいから任せとけって」
俺は胸をドンと叩き、涼真から真咲ごとカートを奪って精肉コーナーへ急いだ。
「きゃー!!!」
立ちのぼる湯気と肉の焼ける匂いに真咲の口から涎が溢れた。
「召し上がれ」
「あー!」
小さく丸めたハンバーグにフォークをぶっ刺して真咲はどんどん口に入れようとする。
「一つづつ食べようか」
慌てて涼真が真咲の手を止めた。
「まんま!」
「ほら、ご飯も食べる」
ガツガツとハンバーグを食べる真咲はこの間とは全然違ってあっという間に食器を空にした。
「ぱぁぱー…」
「たくさん食べたね。明日また食べよう」
家事が得意でない涼真の為に、多めに作って冷蔵庫に入れておいた。
二人の笑顔を見て、俺は誰かの為に作る食事は食べてもらえるだけでこんなに嬉しいんだという事を初めて知った。
ともだちにシェアしよう!