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第21話

「うー、うー…」 「…これって…俺を呼んでるのかな」 掛け布団の上から馬乗りになった真咲に揺り起こされた。 こんな朝、初めてだ。 「真咲、おはよ。いーくーや!言ってごらん」 「うー、うー、あー」 「言い難いかな…。父ちゃんって呼ぶ?くっくっく…」 涼真がパパなら俺は父ちゃんでいい。 冗談で真咲に話しかけ、一人笑う。 気持ち悪い大人だ。 「とーと、とと」 きゃー、と言って真咲は笑う。 「そうか、とと、って呼んでくれるのか。ありがとな」 男同志の秘密の会話。 すぐ近くでまだ眠っている涼真には内緒。 「…あ、もう起きて…わ、十時?」 話し声で目覚めたのか、寝すぎた…と呟いて涼真が慌てて身体を起こす。 寝起きの、全てに気を許したこの無防備な感じ。 寝巻きがはだけて、少し肌色が多めなのもいい。 昨日は真咲を挟んで川の字になって眠った。 二人が眠りに落ちた後、俺はこっそり涼真の寝顔を眺め指先で唇に触れた。 これぐらいいいだろ? ささやかなご褒美。 「今日涼真はのんびり過ごして俺の実力を見てくれよ。真咲、着替えよう」 「あー、とと!」 「とと?魚?」 「いーの、こっちの事!」 「郁弥…」 涼真を布団に残して真咲と二人、手を繋いで立ち上がった。

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