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第31話

小学校の卒業式を間近に控えた日、俺はクラスの女子に呼び出された。 場所は体育館裏。 どう言えばいいのか…話した事もないようなその子に俺は何の感情も持っていなかった。 「香束くん、東藤くんと仲がいいよね」 「…」 「東藤くんって、付き合ってる人とかいるのかな?」 上目遣いに聞いてきたその子は女をアピールしているようだった。 …涼真の事…好きなのかな…? 胸が苦しい。 「俺、知らない。自分で聞けば?」 「あんなに仲がいいのに、知らないの?どうして?」 何故か勝ち誇ったように言われてカチンときた。 君になんか、言わない。 例え知ってても。 ムカムカしながら教室へと戻る。 だが渡り廊下を早足で歩きながら、ふと考えた。 この先涼真も誰かを好きになるだろう。 でも…きっとその相手は俺じゃない。 いつか俺じゃない誰かと、今まで俺としてきた事をするのだろうか。 春の、まだ冷たい風が目に滲みた。 ぼやける景色を見ないように、涙に気が付かないように下を向いて走った。 教室に帰って来た時には涙は風と一緒にどこかへ行ってしまい、普段通りの顔で涼真と向き合う事が出来た。 「用事は終わったの?」 「…人違いだった」 「…帰ろう」 笑顔の涼真から差し出された手を俺は躊躇いながらも握った。 あと何回こうして手を繋げるのか分からない。 もう、これが最後かもしれないから。 「とと?おねむ?」 下から真咲がオレを見つめている。 小さな手の温もりは懐かしい過去を思い出させた。 「うん。一緒に寝てくれる?」 「いーよ!」 にっこりと笑う真咲は遠い昔に見た涼真の笑顔とよく似ていた。

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