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第34話
『ゴメン!仕事ちょっとミスしちゃって。もし行けそうなら今日のお迎え頼んでいいかな?』
もう少しで終業時間というタイミングで涼真が珍しく携帯に掛けてきた。
よっぽどな事があったのか。
「大丈夫。迎えに行くから安心して仕事して来いよ」
『助かる!ありがとな、郁弥』
そう、こういう時の為の俺。
少し残業にはなるけど保育園のお迎えには余裕で間に合う。
「今日の晩御飯は何にしようか…」
真咲を迎えに行って、それから二人でスーパーに寄って晩御飯に何が食べたいか相談しようか。
ついでに休みの日に食べるおやつも涼真に内緒で買っておいて部屋の隅に隠しておこう。
いつの間にか俺は一人でウキウキして涼真と真咲の為に何をしようかと考え出した。
…もちろん仕事は仕事。
ちゃんと終わらせてからの真咲のお迎え。
早く行きたくてつい、急ぎ足になっていた。
何人もの人が始終開け閉めする門扉が、ギィ、と鳴る。
もう外は暗くて園庭には誰もいない。
「こんばんは。東藤真咲、迎えに来ました」
「ととー!」
ガラス越しに真咲が俺を見つけて嬉しそうな顔をしてみせた。
「真咲は何が食べたい?唐揚げ?照り焼き?」
「あんばーぐ!」
「そっか、ハンバーグか。挽肉買おうな」
「あーい」
精肉コーナーで肉を吟味し、次はお菓子。
「真咲、涼真にはナイショだぞ。三つだからな」
「みっちゅ…」
指を三本…正確には二本と半分…薬指が若干伸びきっていないのはご愛嬌。
真剣な面持ちでお菓子を選ぶ姿を後ろから眺めた。
「あっ…」
声に反応して振り返ると、朝保育園で見た先生がそこに。
「あぁ…こんばんは。先生買い物…ですよね」
「はい。真咲くんとお買い物ですか?」
「そうですよ。晩飯作るんで」
そう言うと先生は困ったような何とも言えない顔を俺にして見せた。
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