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第36話

「今日は遅くなったなぁ。はぁーーーー」 と、息の他に何か得体の知れないモノまで吐き出していそうな佐藤さん。 うわ、もう二十二時、良い子はとうに眠ってる時間。 涼真に終電で帰るって連絡はしたけど…大丈夫だよな? 「真咲が ととない〜、とか言って泣いてたりして…」 淡い期待をしてみるが、真咲は俺や涼真がいないからって拗ねるような子供じゃない。 「もっとワガママいってもいい歳だよ…うん」 他の子供がどうかなんて知らないけど、泣いたり笑ったり色んな表情を見てみたい。 おっと、仕事中だ。 シャキッとしろ、俺。 仕事仕様の顔に戻して、PCと向き合った。 「香束、お前帰っていいぞ」 「え!いいんですか?」 「今日はこれ以上進展しそうにないしな」 「ありがとうございます!」 神様、仏様、佐藤様…と心の中で拝んで、レッツ退勤! 足取りも軽やかに駅に向かった。 最寄り駅から徒歩五分でマンションの入口に着いた。 誰にも会わずエレベーターに乗って八階で降りる。 真咲はもう寝てるだろうからそーっと鍵を開けて入らないといけないな、などと廊下を歩きながら考えていた。 カシャン、と乾いた金属音がして鍵が開き、気配を消してスリッパも履かずに極力音を立てないで部屋に上がる。 子供なんてぐっすり眠ってちょっとやそっとじゃ目を覚まさないのにその時の俺はとにかく 静か〜に室内に進入した。 涼真達の部屋のドアをそーっと開けて真咲の寝顔をじっと見た。 うん、よく寝てる。 無垢な寝顔を眺め、ズレた布団を直してからそっと部屋を出た。 さて、涼真はどこだ? 居間の明かりを頼りにドアを開けたが…居ない。 書斎…にも、居ない。 俺の寝室のドアを少しだけ開けて中の様子を伺うと、明かりが付いていてそこに涼真が、いた。

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