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第42話
「落ち着けって。ほら、座れよ」
中黒は表情を変えず、俺に着席を促す。
でも怒りで立ち上がってしまったから、もう座らない。
「帰る」
ひと言 言い残して俺は中黒に背を向け、駅までの道をズンズンと大股で歩いた。
くっそ!ムカつく!ムカつく!
誰に迷惑を掛けている訳じゃないのに、俺がどうしようと勝手だろ!
心の中で何度もそう叫び自動改札機に定期券を叩きつけた。
ホームに電車が来る頃には少し頭が冷えて明日の事を考えられるようになった。
「スーパー寄って、それから真咲と風呂入ろ」
明日は真咲と涼真の為に弁当を作る約束がある。
とびっきりの弁当作って、二人を驚かせてやろう。
天気は快晴。
スタートラインで拳を突き出し、合図を待つ子供達。
小さな目は真剣にゴールを睨んでいる。
「郁弥、ほら!真咲が走るぞ!真咲~頑張れ~」
パーンというスタートの合図で一斉に走り出した。
去年は台風のせいで運動会は中止。
だから子供達も気合いが入っているのだが、どちらかと言うと親の方が盛り上がっているように見える。
どの親も我が子の勇姿をビデオカメラに収めようと必死だ。
涼真は応援が忙しいのでウチでは俺がカメラ係。
真咲を応援する涼真の姿も後で見られるようにこっそり撮影していた。
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