55 / 322
第55話
「俺が好きな人も、咲百合が好きな人も、他の人には言えなくて…だから、二人っきりになった時に…そんな話をしてたんだ」
恋愛話…もちろんする相手を選ぶだろうけど…俺はその話を聞く相手になれなかった。
涼真の好きな人が誰かなんて、知らない。
「咲百合も…好きになったらいけない人に恋をして、苦しんでた。そんな咲百合は自分を見ているようで…俺も辛くて…」
未だに俺の腕を掴んでいる涼真。
痛くはないが、涼真の指先は強ばって白く見える。
「誰?相手は」
一瞬涼真と目が合ったが…すぐに逸らされた。
「…咲百合の好きな人は…大崎先生…」
「え?大崎…?」
「…中学の担任だった…」
…記憶を辿って…担任ねぇ…ああ!
「国語科の!大人しそうな…でもダメって言ったら絶対に曲げない…」
涼真の顔と思い出の中の大崎先生の顔がダブる。
…涼真と…よく似てる…?
…性格も…面影も。
あの頃は気が付かなかったが倍の年齢になってみると、涼真と大崎先生は性格も顔の作りもよく似ている…ような気がした。
「先生と生徒じゃ、無理じゃん。あ、でも卒業しちゃえば…」
「先生、結婚してた」
「そりゃダメだ」
「…でも、卒業間近になって病気がちだった奥さんが亡くなって…先生、酷く落ち込んでた」
「……」
「咲百合は…卒業してからもずっと先生の事が好きだった」
ともだちにシェアしよう!