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第65話
「…はぁ」
大きなため息は思わず出た涼真の本音だろう。
そのまま困ったように立ち尽くしていた。
「置き場が無いなら納戸に入れとけよ」
「…うん、そうさせて…」
無理に口角を上げて俺を気にしながら…涼真はリビングを出ていった。
大崎先生の母親から真咲にランドセル…?
不自然じゃないか?
ランドセルを送る相手ってのは普通は等身の近い親かジジババって相場が決まって……。
…まさか…
ゴクンと喉が鳴った。
…俺の頭には今思ってはいけない事が浮かんだ。
…まさか…ね…。
だって、あんなに真咲を可愛いがってんだぜ?
自分の子でなきゃ無理だ。
それに真咲はどちらかと言えば咲百合より涼真に似ている。
咲百合が先生を慕っていたから…だから気を使って…お祝いに送ってきた…きっとそう。
…でも…
言いようのない不安に俺の心が侵されていった。
「はあーーー…」
週明けの月曜日、モヤモヤした気持ちのまま…結局涼真には聞けず、涼真も言わず…俺は会社に出勤した。
真咲がいれば場が和むから涼真とも普通に話せんだけど…二人きりになるとどうも居心地が悪くて…。
それでも仕事はこなし、只今ランチタイム。
俺は生姜焼き定食を目の前にしてため息を落としていた。
「はぁ…」
「何だよ、辛気臭いな」
「うっせ。他にも席空いてんだろ。わざわざ俺の前に座んなよ、中黒」
「相席は大人の常識」
はあ?訳わかんない事言うなよ。
こちとら機嫌がよろしくないんだ!
お前の顔は見たくない!
「何かあったろ?」
「何も」
「誤魔化さなくていいって」
そう言うと中黒は俺の目の前で唐揚げを口に放り込んでいた。
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