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第76話

「早いね…」 「うん、早いな…」 涼真と二人で真咲を見つめる。 ランドセルを背負ったピカピカの一年生。 小さな子供があっという間に小学生になるんだ。 きっとすぐに中学生になって高校生になって大学に通い出す。 その頃には真咲にも恋人と呼ぶ人が出来るかもしれない。 涼真と咲百合が結婚して真咲が生まれたように、そのうち真咲がパパになって自分の子供を抱く日が来るのかも… 「ちよっと郁弥…泣いてる?」 「…てない。真咲が眩しいだけ…」 「…そうだね。輝いてる…」 …なんだよ、涼真だって目がウルウルしちゃってんじゃん! 「パパ、とと!どう?すごい?」 「うん。カッコイイよ!真咲!」 真咲の笑顔が春の日差しの中で弾けていた。 金曜日、一週間の疲れなんてなんのその。 俺は定時で退勤し、家に帰ってきた。 「お疲れ様」 玄関を開けて出迎えてくれたのは涼真。 「真咲は?」 「疲れちゃったみたいで…寝てる」 「そっか」 今日は待ちに待った入学式。 平日に行われる為…俺は泣く泣く仕事に行った。 本当は行きたかった! でも今日は会議とか会議とか会議とか…チッ。 「集合写真撮ったから、見る?」 「見る見る!テレビに繋いで見よう!」 ネクタイを緩めただけ、スーツも脱がずにソファーに座ってテレビの前に陣取った。 「緊張しちゃってさ、ピントがブレたのがあって恥ずかしい…」 通学路で一枚、正門前で一枚、それから… 「これ、動画じゃん!嬉しい!」 体育館で新入生が先生に引率されて入場している。 「真咲は一組だからすぐだよ。ほら、コレ」 「おお!一番しっかり歩いてる!見ろよ、涼真!」 「ハイハイ」 顔の向きも視線もバラバラ。 足並みもまだ揃ってない。 ホヤホヤで湯気が立っているような子供達。 真新しい一年生。 希望と輝かしい未来しか見えない。 「郁弥…ありがとう」 隣にいる涼真が俺の頬に触れて、俺は自分が泣いていた事を知った。

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