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第83話

涼真の眉が少し下がった寂しそうな顔。 「幸せなら、いいじゃないか!俺は涼真も真咲も幸せになって欲しい!いや、俺が幸せにする!」 …だから…そんな顔、しないで。 「…ありが…と…」 そう一言呟いて涼真は俺に背中を向けた。 小さく震える背中。 嬉しいのか。 それとも、悲しいのか。 涼真の心が何かに囚われている、俺はそう感じた。 …知りたい… …涼真の心を解放してあげたい。 …でも、涼真が言うまで…待っていたい。 待って…待って…、俺達は三十歳半ばになっていた。 真咲は小学六年生。 来年は中学生になる。 真咲は学区内の公立中学に進むが夏羽は私立中学へ進学したので中学からは別々の学校になってしまう。 夏羽と同じ学校に進学したいか真咲に聞いてみた事がある。 「僕ね、なっちゃんが大好きだけどそれと学校は別。中学と高校は近くの学校に通いたい」 そう言った真咲の顔に迷いは無かった。 俺は真咲の本心だと思った。 …だがそう答える理由までは考えが及ばなかった。 「郁弥、これ見てよ」 そろそろ寝ようかと読みかけの本を閉じたタイミングで涼真が俺の部屋に来た。 俺に渡したのは一冊の薄いファイル。 「ん?成績表?」 「真咲の成績をファイルしてるんだけど…凄いんだ」 開いてあるページをよく見ると、それは外部模試の個人成績表だった。 「予備校のアレか。ふ〜ん、んん?」 うっわ!何これ? 得点が全部九十点以上で理科は満点取ってる。 偏差値六十超え。 全国順位三桁かよ…。 「成績いいとは思ってたけど…凄くねえか?」 「帰って来るとずっと勉強してるし…少し心配なんだ」 そんなに心配する事だろうか。 「子供なんだし、そういう時もあるんじゃないか?」 「…そうかな、そうだよな」 嬉しくても心配になる、さすが父親。 「中学に入れば部活とか忙しくなるだろうし、大丈夫だろ」 「…そうだよな」 …大丈夫、そうだよ。 勉強なんて長く続かない。 …なんて、俺と同じように考えちゃいけなかった。

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