84 / 322
第84話
卒業式は五分咲きの桜が咲いていた。
校庭の桜の木の下で撮った涼真と真咲の写真が俺の部屋に飾ってある。
泣いてない、と言っていたが目元が赤くなっている涼真と緊張のせいか表情の硬い真咲。
背も随分と伸びて涼真と十数センチしか変わらない。
「もう入学式か…はえーな」
すっかりと散ってしまった桜の花びらを踏みしめて、真咲は今日から中学に通う。
「行ってきます」
「おう、いってらっしゃい」
真新しい制服姿の真咲は少年から青年に移行するちょうど中間みたいで、不思議な美しさと儚さを合わせ持っていた。
あどけなさは薄れ、憂いを含んだ瞳。
背丈だけ先に成長した細長い手足。
毎日が楽しくてしょうがないと全身で表していた六年前とは別人のようだ。
小学校の時と違って中学生は入学式に一人で行くらしくもちろん保護者も出席するのだが、子供より一時間ほど遅い時間が指定されていた。
真咲の背中を見送ってから、俺も身支度を整えた。
「じゃ、会社行くから!涼真、写真よろしく!」
「分かってる。いってらっしゃい」
そして今回も会議の為入学式には行かれない…。
卒業式だって、年度末の忙しさに休みを取れず涙を飲んだのに!
くっそ!三年後の卒業式は何がなんでも行く!絶対!
「あ〜もう!遅くなった!」
定時で帰りたかった!
なのに予定外の残業…うぅ。
やや空き始めた電車を降りて改札口を抜けると真咲がいた。
改札ではなく通りの方を向いていた真咲は俺には気が付かず手を振った。
「誰…?」
思わず足を止めて身を潜めた。
真咲に近寄ってきたのは…夏羽。
「こんな時間に…あ、夏羽は予備校か」
二人は肩を並べて住宅地の方へ向かって行った。
ともだちにシェアしよう!