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第85話

「夏羽は塾の帰りなのかな」 どうも夏羽は有名予備校に通っているらしい。 真咲はと言えば近くの学習塾に週二日お世話になったまま。 予備校を勧めてみたが自分には必要無いという。 何より通うのに時間を掛けて帰りが遅くなると学校の勉強まで手が回らなくなる、と言うのだ。 夏羽は同じ中学生でも電車で予備校に通い、しばしば遅い時間に帰ることもあると優羽から聞いていた。 「予備校通いなんてよく続くよな」 距離を置いて二人を見守るように後に続く。 春とはいえ夜風は冷たい。 駅から家までのほんの僅かな距離、体温の高い子供なら気にならないのかもしれない。 あと少しという所で前を歩く二人は家とは違う方向に曲がった。 「え…?どこに行くんだろう」 男とはいえ中学生には遅い時間。 「でも、話したい事もあるかもだし…少しだけ見守ってやるか」 俺も二人と同じ方向に曲がった。 二人はツーブロック先にある公園のブランコに並んで座った。 「ここ、何回か来たな」 いつもは公立の公園で遊んでいたが、真咲と二人の時はここでブランコに乗せたりした。 「一人で漕げなくて、背中を押したっけ」 懐かし思い出。 あの時小さかった背中は今はもう大人のそれと見劣りしない大きさになった。 思い出に浸ってしんみりしていたら、突然真咲が声を荒げた。 「そうじゃない!僕は…僕は本当の事が知りたい…」

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