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第86話

「真咲…!」 ブランコが歪な動きをして激しく揺れた。 立ち上がった夏羽が真咲の腕を掴む。 「落ち着けよ」 「でも…」 「ほら、よそ見しない。俺と同じ大学に行くんだろ?」 「……」 「そうだ、たまには家においでよ。翔が会いたがってた。舞はね……」 偶然聞いてしまった二人の会話。 「本当の事…か」 きっと真咲は気付いてしまった。 小さな矛盾に。 それは俺が六年間胸の奥にしまい込んでいたものと多分同じ。 「寒っ」 春の夜風が容赦なく吹き付け、体温を奪う。 俺は真咲と夏羽を見守り続けた。 二人は少し話をした後、揃って家の方角に歩き出した。 頃合を見計らって近づき二人の肩に腕を掛ける。 「ただいま〜。夏羽は予備校帰りか?遅くまで大変だな」 「とと…じゃない、郁弥さん、お帰りなさい」 「とと でいいよ」 「…もう、そんな歳じゃないし」 「そうか…ととじゃ子供みたいだ…」 「真咲…お前まで…寂しいなぁ」 右腕は真咲、左腕は夏羽の首に回してギュウっと抱きしめた。 「とと、苦しい」 「真咲も夏羽も大っきくなったな〜」 「まだ郁弥さんには敵いません」 「そんなこと言って〜高校入ったら俺の背を越す気だろ?」 「ふふ、そうかも…」 悪戯っぽく笑う所、優羽に似てる。 「真咲も大っきくなんだろうな」 「…多分」 親戚のオヤジのような気持ちで見守ればいい。 俺はそう思うしかなかった。

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