97 / 322

第97話

「気持ちくなかった?」 「…」 首を横に振って問いには答えたが、涼真に背を向けて丸まる俺。 「こっち向いて」 「…カッコ悪い…」 「はは…」 イッてしまったのだ、すぐに。 もうちょっと頑張れると思ってた、息子よ…。 「もう終わりって訳じゃないだろ?それとも…過去が気になってる?」 「…え…」 振り返って涼真の顔をじっと見た。 「郁弥が思ってるのとは違うけど…誰かと付き合った事…無いんだ」 「本当?」 「こーゆー事も…その…」 …もしかして、俺だけ? 「…でも、さ…寂しくて………とか、使ったりしてたから…初心者とは言いきれないけど…」 「…おもちゃ?」 「……とかね」 涼真は赤らんだ顔を恥ずかしげにそらす。 「じゃあさ、こういうのは、どう?」 起き上がりベッドの下に手を伸ばして、ショップネームの入った黒い紙袋を渡した。 「何?」 俺に釣られて起き上がった涼真は封を開け中身を取り出すと顔色がサッと変わった。 赤みを帯びていた顔から血の気が失せ、涼真の指が僅かに震えている。 「…え…あ…これ…何で…」 「ゴメン…見ちゃったんだ…その…部屋で…」 目を見開き明らかに動揺していた。 「きも…ち悪くさせた…?」 「違う!俺は涼真が着てるとこ、見たいだけ!」 「見たい…?見たいの?」 俺は深く頷いた。 「見せても、嫌いに…ならない?」 「なるはずないだろ!」 ホッとしたように息を吐き出して、涼真はそれを俺に手渡した。 「なら…郁弥が…着させて…」

ともだちにシェアしよう!