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第105話
「どうぞ」
「…ありがとう…」
コーヒーカップを手渡して、俺はリビングのテーブルに向かい合って座った。
さっきすぐにでも話出そうとした涼真だったが、いざ話そうとすると言葉がなかなか出なかった。
だからまず飯を食ってからにしようと俺が言ったんだ。
黙ったままトーストを齧ってその後回していた洗濯物を干し、コーヒーを淹れた。
砂糖とミルクたっぷりの甘いコーヒー。
もう、涼真はあの頃の…子供のじゃない。
今まで聞きたかった事が山ほどある。
…何から話してくれるのか…。
俺と向かい合っている涼真は手のひらでカップを覆い、湯気の立つ液面を見つめていた。
眉間に寄った皺は、あの日…まだ赤ちゃんだった真咲がスーパーでぐずって泣いていた時に見たよりも深くて、俺も涼真も少し歳をとったんだと感じた。
聞かなくても、いい。
このままこの関係を続けても。
…でも涼真が打ち明けてくれるなら…どんな内容でも俺は嬉しいし最後まで話しを聞きたい。
コーヒーを一口飲んでから、涼真が口を開いた。
「俺、コーヒー飲めるようになったんだ。咲百合がさ…郁弥はコーヒー好きだから飲めた方が楽しいわよって言ったから」
「咲百合が?」
頷く涼真。
「前にも言ったろ?同士だって。咲百合は…俺の事を愛していた訳じゃないんだ」
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