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第106話

咲百合は涼真を…愛していなかった…? 「咲百合が好きだったのは、…大崎先生」 「……」 それは涼真から以前聞いた覚えがある。 「でも先生は教師で結婚していて、…相手は中学生の教え子。常識的に無いだろ?」 「…うん」 相手は未成年で、自分は妻帯者だったら… もう刑法でも倫理的にも…有罪案件だろう。 「当然、先生は咲百合を全然相手にしなかったんだ」 「だろうね」 「でもね…咲百合はずっと先生のことが好きで…」 辛そうな顔をして涼真は話す。 「…報われないから止めろって、俺、言ったんだよ?でも…」 コーヒーカップを持つ指先に力が入って白く震えていた。 「でもね、咲百合がさ、…郁弥の事 簡単に諦められるの?って聞くんだ。…おかしいだろ?」 涼真の目が自分を嘲笑っているように見える。 「だって、俺は同じ土俵にも上がれない…」 「涼真…」 「異性なら…時が経てばチャンスがあるかもしれないけど…俺には…一生無いんだ…」 「……」 先生への想いを諦めない咲百合と、俺への想いをひた隠しにしてきた涼真。 誰が正解かなんて、どれが正解かなんて 分からない。 「俺は咲百合が心底羨ましかった」 伏せ目がちに視線を落とした涼真が何かを決心したように唇をキュッと結んだ。 「……愛する人の子供を産んだんだから…」

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