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第108話
「咲百合…体が弱かったんだ…」
「……」
頬杖をついて、涼真はまだ窓の外を見ていた。
初夏の風が優しく室内に吹き込む。
「…知らなくてさ…妊娠が分かった時に 俺…軽率に産みなよって言っちゃったんだ…」
咲百合と先生なら…まだ未来が見られる、そう思ったんだろう。
「…でもさ…子供を産む直前に…先生が亡くなって…大きなお腹を抱えて咲百合は葬式に行った…。どんなに辛かったろう…」
涙超でポツポツと話す涼真。
テーブルの上に水滴が増えていく。
「…父親と二人で暮らしていた咲百合は先生が亡くなってから実家に居るの辛くなって…それで…俺と暮らし始めたんだ」
…涼真の優しさ。
涼真だけが咲百合の理解者だった。
「俺さ…真咲が生まれて…嬉しかった。…他人なのに…」
「…違うだろ…」
「…いいんだ…事実なんだから」
他人なんて言葉、寂しくて…辛い。
「…指が…真咲の小さな指が…俺の指を握って離さなかったかったんだ…。郁弥、産まれたての命が…俺を…選んでくれた…」
「……」
「…だから…俺が、先生の代わりに この子の父親になるって…なるって…決め…て…ぅ……」
頬杖をしていた手はいつの間にか涼真の顔を覆い、震えていた。
「俺…俺が…真咲と…咲百合を…先生の…うっ…代わりに…ま…守って……うぅ…っ…」
言葉が嗚咽に変わる。
「もういい…いいから……」
ガタンとイスが倒れ、俺は涼真を胸に抱きしめていた。
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