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第109話
「俺がいるから…涼真」
「…っ…うぅ……」
震える肩。
生と死と、…短期間で正反対のものに向き合った。
産まれたばかりの真咲と、死んでしまった咲百合。
日々の生活に緊張し、必死だったに違いない。
「…あ…りがと…」
やや俯いて俺の胸を押した。
そして涙で濡れた顔を手のひらで拭きながら涼真は続けた。
「…クリスマスは三人で出掛けようって、…ツリーを見に行こうって…」
そう…冬だった。
「…でも…咲百合が風邪をこじらせて……あっという間だった……」
…年明けの寒い冬の日に…日本から…
…咲百合からの手紙が俺に届いた。
「真咲に風邪をうつしたらいけないって…咲百合は別室で休んだんだ。次の日は金曜日で、大きなクリスマスツリーが見たいって言ってたから俺はこっそり有給を取って…咲百合を驚かせようとして…」
「…うん」
「その日は朝から暖かくて…出掛けるにはちょうどいいって…俺は浮かれて…真咲と起こしに行ったら…もう…咲百合は……」
「…いいよ、涼真。もう…」
押し返されても再び涼真の頭を引き寄せる。
声を殺して、悲しみを自分の中に閉じ込めて…そうやって涼真は過ごしてきたんだろう。
「…綺麗な顔をして…まるで眠ってるようだった。苦しまずに天国に逝ってしまったようだって医者が言ってた…」
「…わかったから…」
…もういい。
…そんなに悲しい顔、しないで…。
「真咲は…俺の宝物なんだ…。俺に生きる意味をくれた、大切な…」
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