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第116話

「…ッ…!」 客が声を掛けたのにその男は一歩奥へと後ずさり、驚いた様な素振りを見せた。 「…はい…あの…少々お待ち…頂けます…か…」 …ん?この声…。 そして…この顔知ってる…! 「え…!何でぇ!」 しっかりと顔を見て、驚きのあまり上擦った声を出してしまった。 「そんなに大声出さないでよ…郁…」 「だ…って…予備校は?」 「…今日はもう終わってるし」 夏羽がメガネ、マスク、そしてオーバーサイズに見える割烹着を着て上から俺を見下ろしている…。 「アルバイト?してんの?」 「ん…まぁ、そんなとこ」 「姉ちゃんは知ってる?」 「……」 「あーーー…」 黙ってやってんのか。 「学校的には大丈夫なのか?」 「…まぁ、そこは…」 「親に内緒は感心しないけど…理由、あんだろ?あ、そうそう、たこ焼き二舟ね!」 ただ喋ってるだけだと夏羽の査定に響く、俺はそう思ってとりあえず注文をした。 初心貫徹ってやつだ。 「何時までやんの?」 「臨時だから今日はあと一時間位」 「そっか…。じゃ、待ってるから終わったら一緒に帰ろう」 「……うん。はい、これ…」 レジ袋に入ったたこ焼きを受け取って代金を払った。 「んじゃこれで」 「はい…お釣りです」 「…後で、な」 夏羽は何か言いたげだったが、黙って頷いてくれた。

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