123 / 322
第123話
「…すみません…でした…」
涼真の言葉が夏羽の必要としていたそれなのかは分からない。
だが夏羽はあからさまに項垂れてしまった。
「…酷い事言いました。そんな言葉を言わせたかった訳じゃなかったのに…」
「いいんだよ、分からない事は何だって僕に聞いて」
しばらく俯いて唇を噛んでいた夏羽が視線を上げて俺を見た。
「とと…僕ね…好きになった子…男の子なんだ…。でも…」
言葉が途切れ、また俯く。
「…でも…でもね…」
目は何かを訴えるように俺を見つめるのに…その次の言葉が出てこない。
「いいよ、焦らなくて。今はまだ言わなくてもいいんじゃないのか?」
そう言うとふるふると頭を振った。
「本当は…ぼ…くは…僕は…りょう…まさんに…あんな事…言う資格な…んて…無い…」
目を見開き瞳いっぱいに涙を溜めて、顔を歪ませる。
「何がお前をそんな風に苦しめるんだ?」
「だっ…て…あぁ…」
涙が一筋零れて頬を伝い夏羽の胸を濡らす。
「夏羽…」
「ふっ…う…ぅあああぁぁ……」
その涙が次の涙の呼び水になったように…夏羽は初めて俺の前で大泣きした。
泣いて泣いて、泣いて…。
小さな子供のように泣き疲れて…夏羽は眠ってしまった。
いつからその小さな胸を痛めていたのだろう。
ただ見守る事しか出来ない俺は夏羽の為に何が出来るだろう。
俺の腕の中で眠る夏羽。
その幼い顔に残る涙の跡を指で拭き取った。
ともだちにシェアしよう!