127 / 322

第127話

「部屋、暑くないか?」 無言で仕事をしている中、佐藤リーダーが苛立った声でネクタイを緩めた。 そろそろ夏本番、真っ盛り。 ブラインドを下ろしていても室内に夏の暑さが入り込む。 「エアコンなら冷房で入ってます」 モニターから視線を外さず、涼しげに答える中野さん。 「もしかして二十五度?二十度にしてよ」 「暑がりなのは知ってますけどクールビズってご存知ですか?」 「そんな事言ってると俺のパフォーマンスが海抜ゼロメートル並に落ちるぜ」 「…ハイハイ。分かりました。…フゥ…」 ため息を吐き出し、中野さんが折れた形でエアコンのコントロールパネルを操作した。 冷たい風が勢いよく吹き出し口から出てきて佐藤さんの顔が緩む。 「あ〜コレコレ…」 「さあ、じゃんじゃん働いて下さいね」 …にしても…この二人、仲良いよな。 「香束、手がお留守」 一瞬よそ見をしただけで中野さんに見つかってしまい鋭い眼光が刺さる。 「は、はいッ」 さあ、今日も少しでも早く帰れるように頑張ろ。 世間では夏休み秒読みなのだが…ここは繁忙期の忙しさだ。 「香束、コレも!イケるか?」 「え!ハイ…だ…大丈夫デス…」 いつもならこの時期はそれほど忙しくないのに…。 今年は皆、と言ってもここでは三人しかいないのだが、抱えている仕事が集中していた。 「ったく!お偉いさんが勝手に話をすすめちゃうから!もう!」 「俺達は社会の歯車です」 「うっわ…キツ…」 先輩達は文句を言いつつ、手はしっかりとキーボードを叩いている…さすが! 「あ、そうだ。香束、今年は夏休み取れると思うなよ」 「え…」 「八月中は終電だからな。覚悟しとけ」 「マジっすか…」 「大マジ」 …聞いてない…。 俺の…夏休み…。

ともだちにシェアしよう!