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第128話
「…て訳で、死亡宣告が出ました…」
「うわ…。噂には聞いてたけど…」
忙しそうだもんね、と言って涼真が麦茶の入ったグラスをテーブルに置いた。
「サンキュ。…あー冷たくて上手い」
今日は終電とは無縁の時間帯に会社を出られた。
今はまだ七月だが死に神が降臨するのは来月か…。
ま、ウチは三駅だからタクって帰って来ても何の問題もない距離だけど。
「しょうがないよ。大人だもん」
「涼真、しょうがないって顔じゃないよ」
俺よりも涼真の方がショックを受けた顔に見えた。
「今年は真咲を海に連れて行きたかったのにな」
「…あ…あのね、真咲なら夏休みは水泳部の練習で忙しいって」
「…え…そうなの?」
コクンと涼真が頷く。
なんだ…部活か。
「じゃあ、しょうがない、な」
三人で出かけようと思っていたのに、真咲が忙しいんじゃ邪魔する訳にもいかないし。
「来年…だな」
「そうだね」
来年こそは、海に…海じゃなくてもいいんだけど…三人で泊まりで出掛けよう…俺は心に誓った。
佐藤さんの言葉通り八月中はほぼ終電で帰宅し、真咲の夏休みが終わる頃にようやく人道的な時間に帰れるようになった。
「香束お疲れ様」
「っても年明けからまた忙しくなるけどな」
労ってくれる中野さんと突き落としてくる佐藤さん。
「え!佐藤さん鬼ですか?終わったばっかりの今そんな話しないで下さい!」
「ご褒美に明日から二日間有給とっていいぞって言おうとしたけど…いらないなら…」
「嘘です〜ありがとうございます」
「もう帰っていいよ」
中野さんがくすくすと笑っている。
「お先にします!」
やったー!と俺は弾む気持ちで会社を後にした。
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