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第131話
「あのね…僕の母さん…、どんな人だった?」
真っ直ぐな瞳。
まだ欠片も濁っていない澄んだ色。
「咲百合?美人で頭が良くて…気が強かったかな」
「…ふうん…」
「俺と涼真は咲百合とは幼馴染みだったんだ」
「……」
「涼真には聞かなかったの?」
「…」
黙って頷く真咲。
「悲しそうな顔をするから。聞けなかった」
「…うん、そうだよな。ゴメン」
俺は真咲の隣に腰を掛け、肩をそっと抱いた。
不安や寂しさもあったろう。
母親がいない事実を、真咲は小さい時からただ受け入れてきた。
「咲百合と涼真はね、よく図書室でデートしてた。ずっと二人で…日が暮れるまで」
…俺は二人の姿を見るのが辛かった。
でも、もう思い出。
「そうなんだ…」
そう言うと真咲はふっと俺から視線を外し、躊躇いがちに話し出した。
「教えて…欲しい事があって……」
「俺で分かる事なら」
そう言って内心、しまった、と思った。
この雰囲気でタイミング、…あの事だ…。
抱き寄せていた肩に力が入り、そしてゆっくりとだが真咲の目が再び俺を捉えた。
「…僕の…本当の…父親の事」
強い意志を持って、俺を射抜く瞳。
「…それは…」
いつかこの日が来ると思っていた。
…でも…
「…俺の口からは言えない」
「やっぱり…?」
「俺ではなく涼真が言うべき事だから」
「……うん」
小さな肩が か細く震えた。
「俺が言えるのは…涼真はお前を愛してるって事だけ」
「……」
「後は…涼真…父さんから直接聞いた方がいい」
「…分かった…」
ため息と共に真咲の身体からは力が抜けていった。
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