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第132話

「足の痛みはどう?」 「ととが冷やしてくれたから、だいぶいいよ」 「なら着替えて来いよ。俺は洗濯物干しちゃうからさ。そしたら昼飯にしよう」 「うん」 やや足を庇うように真咲は歩き出しリビングを出ていった。 後ろ姿を見送ってもソファーから立ち上がる気になれない。 やるせない気持ちでいっぱいになったしまったのだ。 「本当の父親…そんなの涼真に決まってんじゃん…」 どんな思いで涼真が真咲を育ててきたのか…どれだけ愛しているのか……俺はそれを一番近くで見てきた。 「…それなのに…」 遺伝子上の父親の存在が涼真と真咲を傷つける。 「あー!やってらんねぇ!」 一言だけ声を荒らげて、俺は勢いよく立ち上がった。 「玉ねぎはみじん切りにして」 今日の昼飯はチャーハンで、洗濯物を干してから真咲と一緒に作っている。 足を痛めてるんだから座っていればいいのに、自分が作ると言って引かないんだ。 「う…目が…」 小気味よく鳴っていた包丁の音が止み、真咲の顔が天井を見ている。 「目、痛いだろ?俺がやるから休んでろよ」 ギュッと目を閉じた隙間から涙が滲んでいる。 実はすぐ横にいる俺も、目が痛い…。 「大丈夫、僕がやる。この位しか役に立たないんだから」 「…え?」 それは…どういう意味? 「そんな言い方しないでよ。家事は生きていくのに必要なスキルなんだ」 「…うん」 もしかして…真咲はそんな風に思ってた? 例えば育ててもらった代わりに家事をする、とか? …だとしたら…俺は悲しい。

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