134 / 322
第134話
「ただいま」
「おかえり。明日は?」
「大丈夫。ありがとう、郁弥」
夜になって、いつもと同じように涼真が帰宅した。
顔にやや薄暗い陰が落ちているのはきっと涼真が俯いているから。
そして俺は珍しく玄関まで涼真を出迎えたが上手く笑えているだろうか。
「本当の事、知りたいって?」
「うん」
「ついにこの日が来たか〜」
涼真も相当緊張しているようでおどけたような言い方をしているが目はちっとも笑っていない。
「とりあえず飯にしよう」
「ありがとう」
俺が先にリビングに戻り白飯を茶碗によそう。
何も言わなくても真咲は味噌汁を温め、三人分お椀に取り分けた。
「お、ハンバーグ!美味そう〜」
「おかえりなさい。ハンバーグは僕が作ったんだよ」
「そりゃ楽しみだ」
部屋着に着替えた涼真はイスに座ると とびきりの笑顔で真咲に応えた。
今日は涼真と真咲が大好きなメニュー。
他人の俺が出来るのはこれくらいしか思いつかなくて…せめて二人の気持ちが少しでも前を向けるようにって好物にしたんだ。
「このハンバーグに掛かってるソース、美味いよな」
「これはね、肉汁にワインとソースとケチャップを混ぜて作るんだよ」
「へえ〜」
大口でハンバーグを咀嚼する涼真は若干目が潤んでいる。
でも俺は気が付かないふりをするんだ。
だって、今日は二人が親子として本当に試される日だから。
ともだちにシェアしよう!