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第135話
指から食器が滑り、下にある別のそれに触れてカチャンと鳴った。
「イケナイ…俺が何緊張してるんだか…」
洗剤でヌルつく皿をしっかりと持ち直してから、ふと振り返ってテーブルを眺める。
さっきまで三人で食卓を囲んでいた。
いつもと同じように。
…違う…
いつもと同じように見えた…だけ。
胸の中に心配や不安な気持ちを抱えて、笑顔で取り繕っていただけ。
今、涼真は真咲とどんな話をしてるんだろう。
確かに真咲には大切な事を言っていなかった。
でも…今まで真咲や俺が、見て、聞いて、感じてきた事は全て事実なんだ。
涼真が戸籍上でも真咲の父親である事に間違いは無い。
最初が違っただけ…。
始まりが…涼真じゃなかっただけ…。
ノブを強く捻り、勢いよく流れ落ちる水の飛沫が辺りを濡らす。
「あちゃー…」
ぼんやりしていたせいで腹の辺りがびっしょりだ。
「はぁ…」
一旦水を止めてシンク際の壁や床を拭いているとため息が出た。
「気になって集中できねぇ…」
でも、当事者でない俺は…ただ待つ事しか出来ない。
夢を見た。
手紙を読む夢。
それは真っ白な便箋に綴られていて読むのが少し怖かった。
数枚折り重なったそれには咲百合の…小さく整った文字が並んでいて、懐かしさと共に底知れぬ恐怖を感じた。
『 私が死んだ後でこの手紙を読む郁弥へ 』
こんな出だし、絶対に中身が重いだろ?
俺は読みたくなかった。
涼真と幸せに暮らしている咲百合からの手紙なんて。
でも、これを読めば涼真がどうしているか分かる、そうも思ったんだ。
胸が締め付けられるようなそんな気持ちで…俺は手紙を読み進めていった。
『お元気ですか。
あなたがこの手紙を読む頃、私はもうこの世にいません。
楽しくて、美しくて、辛い人生でした……』
「…くや、郁弥…」
「…ん…?」
「こんな所で寝たら風邪ひく」
見上げれば涼真が俺を揺り起こしていた。
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