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第153話
雨上がりの通りを一人で歩く。
夕飯の支度を始める時間まで余裕があるな、何て考えていたら ちょうどマンションの入り口で真咲の背中が見えた。
驚かせないように後ろから声を掛けるといつもよりやや暗い面持ち。
「おかえり」
「…ただいま…」
こちらを向いた真咲は頭から水を被ったように全身びしょびしょだった。
「うわ、ずぶ濡れ!」
真咲はバツが悪そうに下を向いた。
「夕立にやられたのか?」
問いかければ小さくと頷く。
「風邪ひくから早く家に入って着替えろよ」
真咲の肩をポンと叩くと濡れたシャツのせいか身体が酷く冷たい。
「身体が冷えてんぞ。全くこんなに濡れて〜。涼真が心配するぞ?」
「…ごめんなさい…」
「…え?」
一言そう言って真咲は先を歩き出し、俺は真咲の後を追うようについていった。
同乗したエレベーターの中では俯いて俺に濡れた背中を見せている。
居住階に着いても先に降りて俺の方を見ようともしない。
…何かおかしい。
いつもの真咲とは、違う。
真咲は黙って靴を脱いでそのまま部屋に入ってしまった。
俺はリビングにいた涼真に帰ってきた真咲の様子を伝え、ソファーに腰をかけた。
「どうしたんだろう。何かあったのかな」
「多感な年頃だからな。経験を積んで納得して、大人になっていくんじゃないか?」
確かにそうかもしれない。
でも、さっきの真咲はいつもとは雰囲気が違っていた。
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