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第156話

「…え…それ…」 アワアワしながらイスから立ち上がる俺と、狼狽えることなく正面から真咲と向かい合う涼真。 「お前ももう小さな子供じゃないし、はっきりさせておいた方がいいのかも」 俺はギョッとしたが動けず、固まったまま視線だけを涼真に向けた。 「…俺は郁哉が好きだ」 …言った!いいの?そんな事言って!! 冷たい汗が背中を濡らす。 涼真の言葉を聞いて、真咲は肘を付き何か考えているようだ。 組んだ指の上に顎を乗せてテーブルの上のどこかに視線をさまよわせている。 そしてゆっくりと俺の方を向くと、きつく結んでいた唇が開いた。 「…ととは…どうなの?」 酷く寂しそうな表情。 「俺…俺は…涼真の事を大切に思ってる。涼真だけじゃない。真咲の事も」 「…ありがとう…。ととも…父さんを愛してる、…んだよね?」 …もう誤魔化すことは…出来ない。 「…ああ。ずっと…子供の頃から好きだった」 「……うん…」 開かれている真咲の瞳が揺れた。 「真咲…」 「ち…違う!ショックだったとか…そんなのじゃなくて…」 室内灯の明かりを反射しながら頬を伝ってポタポタと滴が垂れた。 「ま…真咲」 「…その…、嫌とかじゃなくて…僕が…他人の僕が二人に気を使わせて…こんな…邪魔するみたいな…あ!」 パチン、…と弾ける音がした。

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