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第157話

「真咲!…言っていい事とそうでない事があるだろ!」 「涼真…!」 立ち上がったままの涼真は置き場の定まらない右手を握りしめた。 真咲は手で頬を押さえ、驚きに目を見開いている。 「な、何も叩かなくったって!」 俺は大声で涼真に叫んだ。 だって子供に手を上げるなんて…! ガタンと大きな音をさせて立ち上がり、真咲の側へ行って彼を守るように胸に抱いた。 「郁哉!」 怒鳴り返す涼真は顔を赤くして身体が小刻みにふるえていた。 「親が子供を叱って何が悪い!」 「今のは違うだろ!暴力だ!」 「何だと!」 「子供を叩くなんて最低だ!」 「……!」 かつて経験した事が無いくらいに俺も頭に血が上って、気がつけば激しく言い争っていた。 いつも穏やかで優しい涼真。 大きな声を出して怒鳴った事なんて、一度も無い。 だけど俺だってこれだけは譲れない。 命の危険でもない限り体罰はダメだ。 「俺は…真咲を人の気持ちが分からないような、そんなふうに育てた覚えなんか無い!」 「だからって!暴力振るうのはいいのか?」 睨み合ってお互いに目を逸らさず相手の様子を伺う。 だがすぐにその緊張感は途切れた。 抱いていた真咲が震えている。 「真咲…?」 「うぇ…ぅ…ご…ごめん…なさい…」 「真咲…」 俺の身体にしがみついたまま、真咲が泣き出してしまった。

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