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第163話

「郁哉…顔、怖いんだけど…」 講堂で子供達の入場を待つ間、俺は保護者の分際で緊張しまくっていた。 「そ…そうか?そんな事…」 …有りまくりだ…。 クラス分けはもう発表されていて、真咲が在籍する事になったのはA組。 スーパー特進、いわゆるS特クラス。 実はここの付属大学も凄いのだが、国公立及び超有名私大を目指す子供達が集まったクラスで進学実績はダントツだ。 なんせここは 千秋藤桜学園。 歴代首相や財政界のトップ、医者、科学者、芸術家達を多数排出するとんでもねぇ学校だ。 俺がビビってどうすんだ、…自分で小さく頬を張った。 ウチの真咲は全国模試ではいつも上位なんだから当然っちゃ当然だ、ウン。 心の中で一通り考えてから深呼吸。 よし、もう大丈夫。 背筋を伸ばして椅子に座り直すと、若い男性が近付いてきた。 「…あの…すみません、足元に…ペンが落ちてませんか…?」 「え?あ…」 身を屈めて床を見回すと靴の踵辺りにボールペンが落ちていた。 ん?ボールペン、だよな? 滑らかな光沢感とずっしりとした重み…めっちゃ高そう…。 俺は拾い上げて声の主に渡した。 「コレですか?…どうぞ」 「…ありがとうございます」 ニッコリと微笑んだその人は一つ間を開けて着席した。 うっわ…ビビった。 スゲー美人。 涼真も相当綺麗だがモデル並みの容姿と言っていいだろう。 柔らかな栗色の髪がスーツの肩で踊っていた。 「郁哉…ほら、始まる」 「あ…あぁ…」 講堂に静かに流れていたクラシック音楽が止み、突如ファンファーレのようなトランペットの音色がした。

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