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第164話
「もう昼近いな」
ラウンジのテーブルに置いたスマホはあと十分で正午を示していた。
入学式でファンファーレと共に入場してきた子供達。
席に着き学園長の挨拶やら何やら一通り終わり、只今の時間は保護者会。
俺は正確には保護者ではないし、男二人が出席するのも如何なものかと思ってここで待つ事にしたのだ。
ワンフロアの半分が飲食出来るラウンジスペースになっていて俺の他に数人が同じように過ごしていた。
「そうだ写真」
俺は手にしていたデジカメの電源を入れボタンを押すと見慣れた顔がこっちを見ていた。
校門で撮った写真。
涼真も真咲も柔らかく微笑んでいる。
「よく撮れてる」
口には出さないが、さすが俺!と内心ドヤ顔をキメた。
そのままメモリーを遡っていけば写真の中の真咲はどんどん幼くなっていった。
可愛い。
やっぱりうちの子が一番。
どの瞬間も昨日のように思い出せた。
「あ…」
不意に背中に小さな衝撃がしてカメラを強く握り、反射的に振り返った。
「失礼、大丈夫ですか?」
「はい…」
肩越しの顔は俺を見下ろしていた。
「さっきの…」
…美人…。
そこは言葉には出さなかったが近くでまじまじと見てしまった。
「あぁ、先程はありがとうございました」
口角を上げて微笑む表情までも綺麗で、俺はどう反応したらいいのか迷った。
「いえ、大丈夫なんで」
興味が無い事もないが、出会った事の無い人種に近づくのは止めよう。
本能的にそう考えて直ぐに背を向け、俺は写真のチェック(見てるだけ)を始めた。
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